Die Verwandlung (ディ・フェアヴァンドルング)
1.Prolog(プロローク)
朝から行なわれていた撮影の仕事が一段落つき、昼食の時間が1時間設けられた。
村上が「あそこの角の洋食屋行くか〜?」と賛同を求める。
メンバー、スタッフ8人ほどが賛成の声をあげ、村上の周りに群がる。
俺はふと、ある店がこの辺りにあったことを思い出した。
「あ、俺は〜、・・・いいわ」
「なんだよ〜、ノリ悪いなぁ!」
「またカレーか!?」
メンバーからの口撃に心が折れそうになる。
しかし一度“カレーの口”になってしまったら、元へは戻せない。
「そこのカレー屋、うまいんすか?」
酒井だけが興味を持って尋ねてくる。
「すっごいうまいよ!」
親指をグッと立ててみる。
それにしても俺ひとことも「カレー」って言葉発してないのに、何でカレー屋だってバレたんだろ?
・・・まいっか。
「どんな店なんすか?」
酒井が興味津々に聞いてくる。
「10年ぐらい前、この辺で道に迷った時に偶然見つけたんだよね。
なんせ迷った時だったからね、場所ははっきり覚えてないんだよ。
路地の奥の方にひっそりとある店で、あんまり綺麗な店ではないんだけど、店のオヤジと奥さんがすごく雰囲気よくて・・・」
呆気にとられるメンバーの顔を見て、我に返る。
カレーのことになると知らずのうちに饒舌になってるよ俺・・・。
冷静さを取り戻して俺は酒井に言う。
「・・・さすがにあるかないかわからないような店に付き合わせる訳にはいかないから、今日はひとりで行くわ。
場所ちゃんとわかったら連れて行ってやるから期待してて。」
もう一度親指を立てると、酒井も「ラジャっ」と親指を立てた。
「んじゃ、ちょっと行ってきま〜す・・・」
身体を屈め、片手を顔の前で前後に振りながら、まるで時代劇に出てくる江戸っ子のようにみんなの前を通り過ぎた。