「んとねぇ、ぼくねぇ、かれーやさんのねぇ、ぱぱさんとままさんにねぇ、いつもごはんもらってたんだけどねぇ、ままさんがねぇ、びょうきになっちゃってねぇ、ぱぱさんがままさんといっしょにびょういんってところにいるからねぇ、ぼく、びょういんにいったんだ〜。」
「・・・はぁ」
「けどねぇ、びょういんにはいろうとしたらねぇ、ぽいって、おいだされちゃうんだ。なんかいもぽいってされちゃってねぇ。」
「はいはい。」
「びょういんのまえでずっとみてたらねぇ、にんげんははいれるみたいだからねぇ、いいなぁ、にんげんになりたいなぁ、とおもってたら、かれーやさんのちかくにこのおにいさんたおれてたんだよ。」
「そうかそうか・・・って、ええっ!!?」
酒井が顎が外れんばかりにあんぐりと口を開けて驚いている。
「だいじょうぶかなぁっておにいさんにさわったらねぇ、おにいさんにかわっちゃったんだよ。」
「そんな馬鹿な!それは何だ!イリュージョンか!『おれがあいつで
あいつがおれで』か!『転校生』か!尾美としのりか!」
「ん〜・・・わかんない・・・」
困った顔をしている人間の俺。いや、俺の格好をした“くろ”か。
それはそうと、猫が 尾美としのり
とか知ってるワケないだろ酒井っ!
って、そんなことはどうでもいい。
俺がこんな姿になったのには、そういう事情があったわけかぁ〜。
姿が入れ替わったっていうことは未だに信じられないけどさ・・・。
「信じられないような話だが・・・くろ君、そのママさんとやらに会えたのか?」
俺が思っていることを、酒井が偶然にも代弁してくれた。
「それがねぇ、びょういんにいこうとしてたらねぇ、にんげんのおんなのひとに『あくしゅしてください』とか『さいんください』とかいわれてかこまれてねぇ、『ぼく、しりません』っていってにげたの。」
俺の格好で『ぼく、しりません』って言っちゃったのかぁ・・・ファンの女の子に嫌われちゃうかもな〜・・・。
「しかたないからねぇ、そのあとかれーやさんのまえでねたの。」
「ゴスペラーズの黒沢薫がナント野宿・・・ファンが見たらビックリするだろうな・・・」
酒井が自分の額に手を置き、天を仰いだ。
「いまからねぇ、もういっかいびょういんいってくるの。ままさんにぼくのごはんのしんぱいはしなくていいよっていいたいんだ〜。」
「ちょ、ちょっと待て!・・・くろ君、人間になってから何か食べたか?」
「ん〜・・・それがねぇ、にんげんになってからねずみがぜんぜんつかまらなくてねぇ、ほんとははらぺこなんだ〜」
“おぇ〜っ”
「くぁ〜っ」
思わずえずいちゃったよ・・・。
毛玉吐く時ってこんな感じなのか?
「く、くろ君!食うなよ!その姿で絶対ネズミ食うなよ!」
「え〜。はらぺこなのにぃ。ぐぅぐぅいってるのにぃ。」
くろは腹を押さえてしょんぼりしている。
「ごはんは俺がもっと美味いもん
たっくさん食わせてやるから!そこら辺のもの、食うなよ!わかったな!?」
「うん・・・わかった・・・。じゃあままさんのとこいってくるね!ばいばい!」
くろは俺たちの元から去っていき、靄の中へと消えていった。