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足取り重く、再び便座に上がる。

はぁ・・・怒らせちゃったなぁ・・・
困ってた時に助けてくれた恩人なのに・・・

ワガママ言ってる場合じゃないってのはわかってるよ。

けどなぁ、恥ずかしいんだぞ!?ホントに・・・
わかってくれよ・・・

なんとか用を済ませて水を流そうとするが、レバーに手が届かない。
オトナの猫に変身していたら余裕で届いてただろうになぁ、これ。

カラダを、手を、目一杯伸ばす。

んぁ!?

つるつるした便座で足が滑り、バランスを崩す。

便器に落ちる!?
はまりたくない!

爪を立て全力で前方へ飛ぶ―――目をかたく瞑る。

 

ごつ〜ん・・・

トイレの壁に脳天をぶつけ、受け身をとる前に床に墜落する。

・・・いったぁ〜・・・
頭また打っちゃったよ。

ん?頭を、打つ?

『頭を打つ→猫』。
ということは。
『もう一度頭を打つ→戻る』?!

ドキドキしながら手に視線を移す。

が、黒い猫の手。

だぁぁぁ〜っ

脱力。無気力。
もうやだ。ホントやだ。

そこがトイレの床だということなんて、もうどうでもいい。
起き上がる気力もない。

もうやだ。ホントやだ。

トイレからの物音が気になったのか、半開きになったドアをコンコンと叩きながら酒井が問い掛けてくる。

「ど〜しました〜?」

重い身体を嫌々起こして、開いたドアの隙間からするりと外へ出る。

大きな酒井を見上げて、レバーを引くまねをする。

「あ、水?流せばいいんですね〜。」
酒井がトイレへ入ろうとするのを一度制止する。

「?」
酒井は声は出さず、表情だけでどうしたのかと聞いてくる。

両手で両目を隠した後、顔の前で両手を小さくクロスさせる。

「・・・“見るな”・・・“ダメ”?・・・あ〜、もぅっ!見ずに流しゃいいんでしょ!見ずに流しゃあ!」

またイライラさせちゃった・・・。
けど酒井の後ろから見てないか一応確認。

よし、見てない見てない。
なんだかんだ言ってもいい奴だなぁ、酒井。


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