6.die Toilette(ディ・トアレッテ)
「なんかしたいこととか欲しい物とかあります?」
・・・そういえば・・・
俺・・・午前中仕事先で行ったきりトイレ行ってない・・・
けどどうやって・・・?
・・・あ〜、やだやだ!
この若さで要介護体験かよ!
短い手で頭を抱え苦悩する俺。
「頭・・・頭が痛い、のかな・・・?ん?違うかな?」
ゼスチャーゲームの回答者のように必死に答えを見つけ出そうとする酒井。
今すぐ行かなきゃってほどじゃないけど、もしこのまま元に戻らなかったとしたら、いずれ世話になる時が来るしなぁ・・・。
手の甲に顎を乗せ、伏せの状態でしばし悩む。
「ん〜と、眠たい、かな?」
いつまでも酒井に答えを考えさせるのは、さすがに忍びない。
そろそろ本当のことを伝えよう。
観念した。
俺は立ち上がり、玄関の方に向かいながら、辺りを見回す。
その後ろを酒井が尾行するようについて来る。
ここ、かな。
“あのさ、トイレ、行きたいんだけど・・・”
「にゃ、にゃ、にゃぉぉん」
「風呂?」
首を振る。
「あ、トイレね!・・・ってどうしたら・・・」
しばしの沈黙。
「あっ、そうだ!」
声の方を見上げる。
「前に猫飼ってた時のトイレとか砂とかシートとか、たしかまだ残ってますよ!」
名案、とばかりに満面の笑顔を浮かべる。
“ちょっ、待て!それだけは勘弁してくれ!”
「みゃぅ!にゃにゃんにゃ!」
顔を激しく横に振る。
「え・・・嫌なの?・・・じゃぁどうすれば・・・」
酒井は腕を組み、むむむと唸っている。
「・・・じゃあ、トイレでしてみます?できます?」
“うん・・・やってみる”
「にゃ・・・にゃぉ」
小さく頷き意思表示する。
「は〜い、どうぞ〜」
ドアを開けてもらう。
便座にぴょんと飛び乗り、どのようにコトを済ませるかいろいろポーズをとっていると、上の方から視線を感じる・・・
“いつまでいるんだよ〜!”
「みぎゃぉ〜にゃぁ!」
床に飛び降り、手で追い払う。
「いや、見たいわけじゃなくて・・・つ〜か、見たいわけないじゃないですか!ひとりでできるか心配してるんです、こっちは!
こんな緊急事態にそんなこと言ってる場合じゃないでしょうがっ!」
逆ギレされてしまった・・・がっくり肩を落とす俺・・・
「・・・じゃ、なんかあったら呼んでくださいね・・・」
はぁ、と溜息をつき、酒井はトイレを出て行った。