5.Beweis(ベヴァイス)
「あ!全部食べたのか!?変な猫〜。・・・ほんと黒ポンみたいな奴だなぁ、お前・・・」
そう!そうなんだよ!俺なんだって!
ん〜・・・どうしたらわかってもらえるんだろう。
なんかないかな、俺を証明できるもの・・・
俺は酒井の部屋の中を探索した。
その後ろを酒井が不思議そうにゆっくりついて来る。
寝室に入るとすぐに大きなオーディオセットがあり、そこに俺たちのCDが積まれていた。
体当たりしてそれを崩す。
背後から酒井の怒声が聞こえるが気にしない。
たまたま近くに落ちた「アカペラ」のジャケットの俺を手で指し示した。
“こ〜れ!これが俺なの!”
「にゃ!にゃにゃぉ〜!」
キョトンとする酒井。
俺は構わずジャケットに写る自分をバンバンと叩き続けた。
「確かにそれが黒ポンだけど・・・お前、人間の言葉がわかるのか?!」
惜しい!今いい線までいった!
頑張れ酒井!頑張れ俺!もうちょっとだ!
とにかく俺はジャケットを叩き続けた。
「何?これ聴きたいってことかぁ?かけてみようか?」
あ〜、そうじゃない!
そうじゃないんだよ!
違うんだって・・・って、あ!名案発見!
「アカペラ」を取り上げ、CDをプレイヤーにセットする酒井の横で、俺は音を採る。
“uh〜uh〜uh〜♪”
「にゃにゃにゃ〜」
よし!やるだけやってみるか!
酒井がスイッチをいくつか押すと、すぐに「いろは」が流れる。
“ABCDEFGHIJKLMNOP〜♪”
「にゃぁぁぁぁぁぁ」
うわ、歌いにくっ!
早すぎて「にゃ」が追っついてね〜よ!
俺は馬鹿だ・・・なんでよりによって「アカペラ」選んじゃったんだよ・・・え〜ぃ!どうにでもなれ!
うまく歌えないが、俺は続けた。
オーディオから流れる酒井のリードボーカルに合わせて、俺のパートを。
歌い続けているとだんだん気分がよくなってきた。
俺は、自分が猫になったということも、巧く歌えているかということも一切忘れ、いつものように歌い上げた。
“ABCDEFG♪”
「にゃぁぁ〜にゃ」
1曲歌い終わり、俺は酒井を見上げた。
酒井は青ざめた顔でこっちを見ている。
「RIDIN' HIGH」の村上のリードが流れる中、酒井は膝からガクリと崩れ落ちた。
そこから尻餅をついた体勢になり、そのまま固まってしまっている。
「あ・・・え・・・」
必死に言葉を探しているようだ。
そして唾を一飲みすると、俺を見て絞り出すように言った。
「・・・く・・・く、黒ポン・・・?」