「あ、あれは・・・!!」
「ホントだ!民生さんと阿部さんだ!」
奥田と阿部はすっかり周りの人々に溶け込み、銚子を傾けてお猪口へ酒を注いでいる。
「・・・完全にできあがってるね・・・。」
「ホントだ・・・おいしそうに飲んでる。俺も飲みたくなってきちゃったよ〜。」
「言うと思った!・・・・・・って、あ!そうだ!俺たち、あのふたりを連れ戻しに来たんだったよね?!」
ようやく本来の目的を思い出した北山に、安岡も我に返った。
「・・・あ〜!忘れてたっ!民生さ〜ん!阿部さ〜ん!」
周囲の声に負けないように、安岡が声を張って呼びかけると、奥田と阿部がキョロキョロと周りを見渡した。
「こっちです!民生さ〜ん!阿部さ〜ん!」
北山も立ち上がり、両腕を大きく振ってアピールしたことで、ようやくふたりの目に留まった。
「・・・おお〜っ!ゴスペラーズくんも来たの〜?」
アルコールで血色のよくなった顔に笑みを浮かべた阿部が、ふわりと右手を挙げて返事する。
「来たの、じゃないですよ!メンバーのみなさんがお探しです!」
「会報の取材があるそうですよ〜!」
北山と安岡が用件を伝えると、奥田がヒザに手を当て、少しよろめきながら立ち上がった。
「お〜ぅ、わかった!」
「じゃあそろそろ帰るとするかぁ〜。」
「さて、おふたりも見つかったし、俺たちも帰るか。」
「そうだね〜♪」
4人が帰る体勢に入った途端、にぎやかだった大広間が瞬時に静まり返った。
それに気づいた北山が、「・・・え、何、」と呟くと、目の前にいた、時代劇の農民風の男が「もう帰るんですかい?」と諫めるように尋ねてきた。
「ええ。僕たち4人はもうすぐお仕事の時間なんです。」
「そんなこと言わずに。せっかくのお祭りの日なんですから、もう少しゆっくりなさっては。」
引き留めようとする男の後ろから、「そうだそうだ!」「飲んでけ飲んでけ!」と声が飛ぶ。
困り果てた顔をする北山の横から、安岡があわてて助け舟を出す。
「すいませんっ!大事なお仕事ですので!時間もありませんので、これで・・・」
北山と安岡は、あいさつもそこそこに、奥田と阿部の手を引いて大広間を囲む障子のひとつを開けて外へと出たのだった―――
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