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「・・・ん?あのテントなんだろ?」

先に気づいたのは安岡。
バックステージエリア奥に茂る大きな大きな森の手前に、ケータリング用とも休憩用とも違う小ぶりの白いテントがひとつ、ポツンと建っている。
その下には人が数名立って、何やら楽しげに話している。

なんとなく興味を引かれたふたりは、特に示し合わせたワケではないが、そちらに向かって足を進めた。

近づくにつれ、その姿が明らかとなった。
テントの下、ちょうどふたりと向かい合う位置に立っていた男が、ふたりの存在に気づき、「おおっ?ゴスペラーズだ!」と声を上げる。
その言葉に反応して、周囲にいた人々も一斉に振り返る。

こちらから挨拶をしようとしていた矢先に、先に声をかけられた北山と安岡は恐縮して身を固めた。
そしてあわてて「おはようございます!」とペコペコとお辞儀を繰り返す。

テントの下にいたのは、なんとユニコーンの5人だったのだ。

「おぇ〜っす。久しぶり〜。」
右手を軽く挙げてそう挨拶を返したのは、道中の車内で散々話題に上がっていたユニコーンのメンバー、奥田民生。
先ほどふたりを見て真っ先に声を上げたのも彼である。

「おっ、お、お久しぶりです・・・」
「ご、ご無沙汰しております・・・」

なおも緊張した面持ちでしどろもどろ挨拶をするふたりをまじまじと見つめるユニコーンの5人。
「すげぇ、ゴスペラーズだ。」「ナマのゴスペラーズだ。」「マジだ、ゴスペラーズだ。」と口々に感動の声を上げている。

「あはっ、ど、どうも・・・」と何とか答える北山と安岡だったが、内心では「ナマのユニコーン見る方がすごいんですけど〜?!!」と突っ込んでいたりする。

「さ。というワケで、早速1曲ハモってくれる?」

ドラムの川西幸一が突然のムチャぶり。
ふたりは「は?!」と奇声を上げながら目を見開く。

奥田が「おお〜!」と歓喜の声をを上げて拍手をする。

「え・・・いや、そんな・・・」
「ほら、『ひとり』とか、『永遠に』とか、ヒット曲あるでしょうに。」
ギターの手島いさむが、ここぞとばかりにふたりを追い込みにかかる。

「す、すいませぇん・・・、アレ、リードヴォーカル僕たちじゃないんで・・・」
「またまたぁ〜。他の人のパートも歌えるでしょ〜?・・・あ、そうだ、リードなしで自分たちのパート歌えばいいじゃん。その方がある意味貴重かも!」

キーボードの阿部義晴も、この状況をすっかり楽しんでいる様子だ。

困り果てた安岡は、ここまでまだ発言がないベースのEBIにチラリと視線を向けて救いを求めた。
しかし、EBIも同じように悪ノリに便乗、「♪いち、に、さん、ハイ!」とけしかける。

大物先輩アーティストにここまで強く言われるともう断りきれない。
ハラをくくったふたりは、大きく息を吸い込んだ。

・・・と同時、奥田が「ウソウソ。冗談だから。」とようやく中断してくれた。
北山と安岡はホッと大きなため息をついた。


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