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ついに最後の練習となった。

「酒井。オレ、今日までに泳げるようになるかならないかで賭けをしてるんだよ。そいつが来るのがたぶん7時頃なんだ。
オレまだ1回もちゃんと泳ぎ切ったことないのに・・・できるかな・・・」
「う〜む。とりあえずその時間が来るまでに泳ぎ疲れちゃったら昨日みたいになっちゃいますからね。
焦らずやりましょう。きっとできますから!ね!」

そんなこんなで、立たずに泳げるかどうかは一旦置いといて、フォームの確認を中心に練習を始めた。

休憩もとって、万全の態勢でその時間を待った。

が、時間を過ぎても村上は現れなかった・・・

「やっぱり無理だと思われたんだろうな。4日間頑張ったのに・・・なんかバカみたいだな・・・」
「来なくてもいいじゃないですか。」
「・・・え?」
「賭けの相手が来なかったとしても、今日までにちゃんと50泳げるようになったら、賭けは勝ちじゃないですか?
今から試しに50、泳いでみましょうよ。」
「酒井・・・」
「最後のアドバイスです。心して聞くように。まずフォームを保つように努力すること。
コースの下に描かれている線を見ながらまっすぐ泳ぐこと。早く泳ごうとしないこと。苦しくなっても焦らないこと。
最後に、50をゴールだと思わずに泳げるところまで泳ぐこと。・・・わかりました?」

「ははっ、いっぱいありすぎて、腕を一掻きするごとに忘れちゃいそうだな。」
「きっと泳げます!・・・頑張ってください!」
「わかった、やってみる!」

オレはコースのスタートラインに立った。
そして大きく深呼吸して・・・プールの壁を強く蹴った。

まっすぐ・・・顔は横に上げる・・・膝から下でバタ足しない・・・手は指先から水面へ・・・ゆっくり・・・

今までの焦りが嘘みたいだ。
泳ぐオレをカラダの内側から客観的に見てるような、そんな感覚。

気持ちいいな、水の中って・・・
泳げるってこんな感覚なんだ・・・

気づくとオレは2回目のターンをしていた。

驚いてオレは立った。

「先輩やったじゃん!フォームも完璧だった!」
「・・・オレ、泳げた、のか・・・?」
「ん!完璧でしたよ!」
「酒井〜!ありがとう!酒井のおかげだよ!ホント、感謝してるよ!」

オレは酒井と抱き合って喜んだ。

近くにいたジイサンに「お兄ちゃんよく頑張ったな!」と誉められた。
ウォーキングのジジババ軍団からも惜しみない拍手。

賭けなんてもうどうでもいい。
達成感で胸がいっぱいになった。


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