酒井とスポーツクラブを出ようとした時だった。
自動ドアの手前に、村上が立っているのが見えた。
「あ・・・村上・・・」
「見てたぞ。」
「え?」
「上のロビーからプールが見えるようになってるんだ。そこから見た。・・・すげぇじゃん。」
「あ・・・ありがとう・・・」
なんだか気恥ずかしくて顔を上げれない。
「オレの負けだ。」
「村上!オレと一緒にシンクロやってくれるのか!?」
「し、シンクロぉ〜!?」
酒井が驚きのあまり3メートル後退している。
「そうだよ。そのための賭けだよ。」
オレは酒井に説明した。
「オレは4日間アンタらのシンクロのために必死で頑張ったんかぁ〜!」
酒井はプラトーンのウィレム・デフォーのように膝を床につき天を仰いだ。
「あ、酒井もシンクロ参加してね。これからも弁当作ってあげるから。」
「マジですかぁぁ〜っ!」
月曜日。
いつも土日は家でゴロゴロしてるんだけど、オレは泳げるようになったうれしさで、例のスポーツクラブにひとりで行って泳いだ。
もうノルマもないし、精神的にも楽して泳げるようになった。
なぜか知らないが、ジジババ軍団の人気者になっていた。
なぜかどこかのジイサンからバナナ2本もらった。
なぜにバナナ・・・。
そんなことを思い出していると、村上が「よぉ。」と声を掛けてきた。
「なぁ、村上〜。」
「ん〜?」
「いつ発表会する?」
「・・・お前ホントやる気マンマンだな。」
「当たり前だろ〜。でないとあんな必死に水泳の練習しないよ〜。」
「まぁ、もうすぐ期末テストだし今すぐは無理だな。
夏休みにチョチョッと練習して、2学期始まってすぐの土日に学校のプール借りてやればいいんじゃねぇか?」
「なるほどな〜。あ、お前受験勉強は?」
「オレは上には上がんねぇから、夏休みはずっと勉強だな。」
「え〜!じゃあ練習できないじゃん!」
「オレはお前と違って練習量が少なくてもちゃんとできるんだよ!」
「なんだよそれっ!・・・それはそうと、人数集めないといけないね。今まだ3人だけだもんね。」
「あの水泳コーチ、すっげぇ嫌がってたけど?」
「大丈夫。弁当作って釣るから。」
「あっそ。」
「村上は誰かいない?」
「あ。いいのがいるよ。イキのいいのが。」
「お前は魚屋か。」