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放課後。

校門の門柱にもたれて待っていると、酒井がやって来た。

「お待たせしました。はい、これ。めっちゃ旨かったっす!北山とふたりで食べましたよ。」
酒井はオレにお重を渡しながら矢継ぎ早に言った。

「じゃ、今日もよろしくな。」

スポーツクラブへ向かう最中、オレは昼休みからずっと気になっていたことを酒井に尋ねた。

「なんで『神童』とまで言われていたのに水泳部じゃなくて美術部にいるんだ?」
「オレね、幼稚園の時、親にスイミングスクール入れられて水泳始めたんすよ。
他のみんなよりちょっとうまかったみたいで、先に始めてた奴のタイムを簡単に追い抜いちゃって。
年上の奴とかに意味もなくいじめられたりとかしてね。いじめられるキッカケになった競泳が嫌いになっちゃったんですよ。
水泳じゃなくて、競って泳ぐ『競泳』をやめたんです。
今でもたまに泳ぎに行きますけど、市民プールとかそういうとこで自分の好きな分だけ、好きな速さで泳いでるんです。」

へぇ〜。酒井も苦労してたんだなぁ。

 

 

スポーツクラブのプール。

今日は、昨日の続きでプールサイドを持ってフォームの確認をした後、ビート板を持ってのバタ足の練習、手の掻きの練習、息継ぎの練習を順に行った。

慣れた頃にビート板なしでバタ足をして、ついにクロールに挑戦した。

プールサイドやビート板を持っていた時はできたのに、息継ぎの時にカラダが不安定になってしまう。
酒井に「カラダが開きすぎ。顔だけを横に上げて息継ぎして」と注意された。

けど25メートル幅のプールで何度も立ってしまう。

やっぱり4日間で50メートルなんて無茶だったんだろうか・・・

 

 

木曜日。

今日は体育の授業があった。
が、前回の授業で溺れてみんなからの視線が痛そうだったから、出席する気にはなれなかった。

オレは時間をつぶすため屋上に向かった。

屋上に出ると、コンクリートの床からの突き上げるような熱気と、空からの刺すような太陽の光に板挟みになってうだるように暑い。
汗が流れ落ちる。

オレはわずかにできた日陰に腰掛けた。

そこからプールが見えた。
出なくてよかった。

だってオレみたいに途中で立つ奴なんかひとりもいないし。
みんなすっげぇうまいし。

オレも早く泳げるようになりたいよ・・・。

 

次の時間、教室に戻ると、すれ違いざま村上に言われた。

「逃げてんじゃねぇぞ、腰抜け。」と。

オレは・・・何も言い返せなかった。


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