開催2週間前。
怪我をした翌日から、オレはただのケータリング係になった。
みんなの練習を日陰から眺めて、時々、隊形の確認にかり出され、「お前はもうちょっと右」とか指図する程度。
怪我をした日から昨日まで、歯痒い思いでみんなの練習を見ていた。
やっと昨日整骨院の先生からOKが出て、今日から練習に合流することになった。
怪我をした直後の嫌な予感は的中。
あいつら4人はオレの遥か前を進んでいた。
オレが今さら全力疾走しても届かない。
“アキレスと亀理論”の亀が、アキレスの後ろからスタートしたようなもんだ。
村上は夏期講習を受けながら、北山と安岡は部活と掛け持ちしながら、酒井は演目を組み立てながらやってるっていうのに、オレは基礎作って弁当作って怪我作って。
はぁ。何この違い。神様まだオレの存在に気付いてないな。やる気出ないよ。
「どうしちゃったんですか?浮かない顔して。」
体育座りしているオレの横に北山が座った。
「ん〜?4人はすごいなぁって思ってね・・・。せっかく自分から『やってみたい』ってことが見つかったのに、やってみたら全然できなくてさ。
みんなは簡単にできるのに、オレだけ頑張ってもできなくてさ。オレってつくづくダメ人間だなぁって・・・」
説明しながらため息が漏れる。
「そうですか?」
北山が水面を見つめたままオレに聞き返した。
「・・・え?」
「先輩ってそんなにダメ人間ですか?オレ、そうは思いませんよ。
世の中には『やってみたい』と思っても、『けど恥ずかしい』とか『けど面倒だ』とか『けどどうせ無理だ』とか言って結局やらない人多いじゃないですか。
『やりたい』と思ったキッカケはどうであれ、話したこともなかった村上先輩に声掛けて、雄二に弁当作って泳げないのを克服して、賭けに勝って、無理矢理オレたちを誘って、ここまで来たんでしょ?
しかも、声掛けられた側も、先輩のことダメ人間だと思ってたら辞めてたかもしれないでしょ?
オレだけじゃなく他のみんなも、先輩が頑張ってるのわかってるから辞めないんですよ。
オレ、黒沢先輩ってすごいって思いますよ。」
「あ、ごめん、ちょっとグッときた。」
照れ隠しで目頭を押さえると、北山がクスクスと笑った。
「残りの2週間、悔いの残らないように頑張りましょうね。」
「あぁ。夏の太陽のように熱く燃えてみるよ。」
「キザ〜。」
「北山に言われたくねぇ〜。」
ありがとうな、北山。
今までのオレに戻らないように頑張ってみるよ。
みんなに追いつかなくてもいい。
少しでも、ほんの少しでも、みんなに近づけるようにオレは遅れを取り戻す努力をした。
だけど、みんなの上に立つのは、どうしてもできなかった。
また怪我をしてしまったら・・・みんなとの差が開くどころか、本番にオレの居場所がなくなる。
その日のために頑張ってきたのに、その場にオレがいないというのが・・・恐いんだ・・・
輝いてるみんなを、その様子をくすんだ目で見る自分を、想像すると足がすくむんだ・・・