練習開始後1ヶ月。
初日だけの予定だった安岡のジイちゃんは、毎日4時になるとフンドシで颯爽と現れ、スパルタ特訓を行った。
その効果か、みんなサマになってきた。
・・・オレ以外は・・・・
うぉ〜っ!なんで他のみんなはできるのにオレだけできないんだぁ〜!
オレはひとつひとつ覚えるのに時間がかかるから、他のみんなと差がますます広がってくる。
オレは遅れを取り返すべく、午前中はスポーツクラブのプールで泳ぎと技の練習をした。
あんまり変な技をやるのも恥ずかしいので、地味めなやつをやる。
そして家に帰って弁当を作って、学校に向かう。
教室で手の動きや、立ち位置や移動の確認をする。
そして4時になると5人全員でジイちゃんによる技教室があって、それが終わるとオレだけジイちゃんから居残りでマンツーマン特訓を受ける。
もう朝から晩まで動きっぱなしでヘトヘトだ。
最近家でそうめん茹でて食べてない。
今までの夏休みからは想像がつかないほど頑張っている。
それなのに、オレはあの日ニュースで見た高校球児のようには輝いてない・・・あいつら4人は輝いてるのに・・・
神様、オレだけ見忘れてんじゃない?
ここに頑張ってる高校生いますよ〜。
シンクロだけど。
「黒沢先輩〜、何ぼ〜っとしてるんすか。はい、練習始めますよ。」
酒井に急かされ、プールに入る。
今日は“Team その他大勢”(酒井命名)も参加し、演目の最後の方に待ち構えている大技の練習だ。
“Team その他大勢”がプールの中央に円形に並んで立ち、その上に村上・酒井・北山・安岡がまた円形に立ち、その上に・・・その・・・オレが乗るっていう・・・
シンクロやりたいって言ったけど、一番上に乗りたいなんてひとことも言ってないよ・・・?
「お前支えれるほどの体力ねぇだろ。そんなヤツが土台の方にいたら、上のヤツが危ない。だからお前が一番上。」
まぁそうなんだけどさ・・・
ついに練習が開始された。
曲に合わせて“Team その他大勢”が泳いで円形に並ぶ。
ここまでスムーズ。
次に4人が“Team その他大勢”の上に登り、立った。
お〜、すげ〜!
「来いっ、黒沢!」
村上が合図する。
ん?ちょっと待て。
「お〜い、どっからどうやって上がるんだよ?」
「バカっ!今オレらが上がるの見てなかったのかよ!」
「見てたけどさぁ〜、早すぎてよくわかんなかった。」
「なんでもいいから早く来い!」
村上すっげ〜怒ってる。
なんだよ〜、怒らなくてもいいじゃん。
「よっこいしょ。」
ひとまず1段目はクリアー。
次は、と。
「酒井〜、上がるぞ〜。」
「早くしてくださいっ!下の人大変なんだからっ!」
「ルイージじゃあるまいし、そんなピョンピョン上がっていけるわけないじゃん。」
「なんでマリオじゃなくルイージなんだ!先輩、早く!」
「よいっしょ。」
お、なんとか上がれた。
ここで立つのか?高っ!おっかねぇ〜!
っていうかバランス悪すぎて立てないってマジで!
「早く立って、先輩っ!」
下から北山の声。
「こんなフラットじゃないとこ立てないってばっ!」
「つべこべ言ってねぇで早く立て!」
もうっ、知らないからな?
「よいっ・・・しょ、うわぁ!」
バランスが大きく崩れる。
落ちるっ・・・!
オレはその最上段からプールの水面に叩きつけられた。
「・・・っ!」
やべ・・・足・・・やっちゃったかも・・・
足が痛くて、水面に浮かんでいけない。
「黒沢っ!」
「大丈夫っ!?」
みんなに救出された。
オレは練習から抜けて、高校の近所にある整骨院に行った。
捻挫で1週間は運動を禁止された。
なんだよ・・・なんだってんだよ・・・またあいつらとの差が開いていくじゃんか・・・
頑張っても頑張っても、オレみたいにスポットライトが当たらない人間もいる。
世の中っていうのはそういうもんなのかもしれない。