練習初日。
村上は夏期講習のため、安岡はジイちゃんを投入すべく、4時からの参加予定。
オレと酒井と北山は12時に集合した。
北山が持ってきてくれたシンクロのビデオを3人で見た。
北山が以前オリンピックの水泳を録画した際、一緒に録れていたらしい。
「な、鼻のクリップつけたくなるだろ?」
「そんなとこ見てんのはアンタだけだ!鼻フェチかっ!」
「鼻フックつけたいと思ったらよっぽどのドMだけど、クリップぐらいならいいんじゃない?」
「そうだよねぇ〜。」
「北山、そんな分析いら〜ん!」
「けどさぁ、コレけっこう大変そうだね。ニコニコしてるから楽しいのかと思ったよ〜。」
「・・・今、殺意を覚えた・・・」
拳を握り締めプルプルしている酒井を北山が「マァマァ」と宥めている。
その後、水中カメラの映像を見て手や足の動きを観察したり、「この技をしたい」っていうのを酒井が簡単なイラストで描き留めたりしていたが、最後の方は「オレ、ロシアチームの左から2番目がいい」と、『なるほど!ザ・ワールド』の恋人探し状態になった。
「アメリカかわい〜!」
「おぉっ、ロシアに思わぬ強敵だな。」
「オレ、アメリカよりロシアの方が好み。」
「・・・お前らバカか。」
途中合流の村上がやってきた。
「あ、村上お疲れ〜。村上もこっち来いよ、アメリカめちゃかわいいから!」
「・・・ったく。」
カバンをそこら辺の机の上に置いてテレビの前に回り込んだ。
「うわ、かわいいっ!オレ、一番左っ!」
村上の目が大きなハート型になっている。
「この一番左の娘の腋がいい!」
「へ?みんなキレイに手入れしてんじゃん。」
「オレぐらいの通になると違いがわかるんだよ!」
なんでそんな必死に力説してんの?コイツは・・・
その後、村上は「この娘のクチビルはエロい」だの「あの娘の足(注:脚ではなく足)がキレイ」だの「ここのチームは全体的にメイクがイマイチ」だの、勢いが留まることはなかった。
「村上、いろんな意味で尋常じゃないよね。」
「うっせ〜。美を追究する目を鍛えているだけだ。」
「そんなちっこい目で?」
「うっせ〜カナヅチ。」