「ちょっと待ったぁ!」
酒井が手を挙げる。
「ん?どうした?」
「シンクロ、誰に教えてもらうんだ?」
酒井の口からもっともな意見が出された。
「あ・・・」
「『あ・・・』じゃねぇよコラ!そこの言い出しっぺのカナヅチ!お前、シンクロ教えてくれるコーチ用意してねぇのかよ!」
村上が『クレヨンしんちゃん』の“みさえ”のようにオレのこめかみをグーでグリグリしてくる。
「いでででで!」
「そもそもなんで黒沢先輩はシンクロやりたいって思ったの?」
北山がグリグリされたままのオレに尋ねてくる。
「いでででっ・・・あの鼻のクリップつけてみたかったからだよっ!」
こめかみへの衝撃が止む。
「はぁ、痛かったぁ〜・・・ってあれ?」
4人は一時停止のボタンを押したように固まっている。
「みんなどうかしたの?」
「そんな理由かよ!」
村上がさっきの倍の強さでグリグリしてくる。
「いでででででっ!しっ、死ぬ!助けて〜!」
「村上先輩、オレの分もやっといてください!」
酒井が村上を応援する。
なんでだ!?
そんなオレたちをよそに、北山が言った。
「たしかに『昔シンクロやってた』とかって聞かないよね。オレ、長年水泳してるけど聞いたことないもん。」
「いでででで!」
「はいっ!」
いきなり安岡が『お笑いマンガ道場』の富永一朗のように元気に手を挙げた。
「な、なに?」
安岡の突然の行動に、クールな北山も戸惑い気味だ。
「ウチのジイちゃんねぇ、古式泳法やってたんだよ。」
「古式泳法ってなんだよ?」
「いででで・・・ホント死ぬ・・・」
村上がグリグリのまま安岡に聞き返す。
「日本に昔からある泳ぎ方のこと。立って泳いだりするんだよ。初日、ジイちゃん連れて来るよ〜。」
「そうか。じゃあ安岡、頼んだぞ。」
「いでで・・・」