翌日の夕刻。
カオルが約束どおり待っているとユタカがバイクに乗ってやってきた。
「お待たせ〜。じゃ、どうぞ。」
「は〜い。」
カオルは前回同様、バイクのサイドカーに乗り込んだ。
カオルが親指を立てると、ユタカはバイクを発進させた。
バイクはまっすぐ、北にある山に向かって突き進んで行く。
家もまばらになり、いつしかコンクリートで舗装されていた太い道は消え、深い森の間を縫うように走る細い道だけになった。
ところどころで景色が開けることもあったが、木々が生い茂っているため空も見えない。
標高が上がってきたのか、初夏とはいえジャケットを羽織っていても肌寒いほどだ。
カオルがウトウトし始めた頃、バイクが減速した。
「ここだよ。」
ヘルメットを脱いだユカタがカオルを揺り起こす。
「むにゃ・・・?」
カオルは眠い目を擦りながら視線をゆっくり上げた。
目の前には朽ちかけた古城が、月明かりに照らされ、夜の闇の中に怪しく浮かび上がっていた。
外壁には蔦が絡まっており、住む者がいなくなった城の窓には当然の如く明かりはない。
時折カラスやフクロウが鳴き、コウモリがひらりひらりと舞っている。
「これ絶対幽霊出るよね・・・」
「1000%出るよね・・・」
カオルとユタカは息を飲み込んだ。
「い、行くぞォ、ユタカぁ・・・」
カオルが声を上ずらせて城の大きな扉に向かって足を踏み出していった。
「う。うん・・・。」
ユタカもカオルの後ろにぴったりとくっつくようについて行く。
ほこりまみれの重い扉を、ふたりで全体重をかけて押し開ける。
ギギギと軋む音を立てながら、ゆっくりと開く扉。
「・・・おっ、重〜っ!・・・も、もうこの段階でヘトヘトなんだけど・・・ゼェ・・・」
「ダメだよ、こんなところでへこたれちゃ!」
なんとかドアは開いたが、先に広がるのは暗闇ばかりで何も見えない。
カオルはポケットから帽上灯をふたつ取り出し、ひとつをユタカに渡した。
それを前頭部に装着し、スイッチをオンした。
「ひぃっ!!」
落城してしまった時の名残りだろうか、正面の大広間は荒れ放題。
槍や弓矢などの武器が散らばり、防具を身につけたまま息絶えた兵士たちの白骨が転がっている。
その奥に広がる大階段もところどころで崩れ落ちている。
「か、カオルぅ、これ、入らなきゃダメなんだよね・・・?」
「おおおお、お前が誘ったんだろ〜?!い、今さら後に、ひ、引けるか、よ・・・」
「お、おおお、おっとこまえだねぇ・・・」
「おおおおおおおお、お邪魔しま〜す・・・」
ドモりながら一歩、また一歩と、中へ中へと入っていく。