一方、大型バイクを操縦していたライダーが、シートにまたがったままエンジンを止めた。
「へぇ〜、さすが財閥だね。別荘なのに大きなお屋敷だこと・・・」
ライダーはヘルメットを脱ぎ、ブロンズ色の髪をくしゃっと掻き上げる。
「あ゛〜、ライダイースーツって何でこんなに通気性悪いんだろ?汗だくだよ〜!」
黒いライダースーツのファスナーを胸元まで開けると、襟元を持ってパタパタと扇ぐように動かして風を送り込んでいる。
ペンダントトップ代わりにチェーンに通した指輪が、月の明かりを受け、胸元できらりと光った。
そして・・・
「どっこ〜いしょ〜。」
バイクの側部に固定されていたサイドカーから、目にも鮮やかな真っ赤なジャケットに黒のパンツという出立ちの男が、車体の縁にしっかり掴まりながらヨタヨタと降りた。
「ちょっとぉ〜!アンタ主役でしょ〜?!大泥棒の孫でしょ〜?!なのに何でモモレンジャー的にサイドカーなのよ?!
それに、これからお宝盗みに入るってのに何でそんなに緊張感ないのさ?!」
「う〜ん・・・一応主役だし、間違いなくジイチャンは有名な泥棒だけどさぁ、俺免許持ってないんだもん。
何で緊張感ないのは自分でもよくわかんない。」
ん〜、と唸りながら首を傾げる赤ジャケットの男。
「しかもそんな目立つ色の服着ちゃってさぁ!盗みに入る格好じゃないじゃん!」
「何だよ〜!お前だってライダースーツの下に着てるの、それ女物だろ〜?!」
「男女兼用ですぅっ!」
「しかも高いんじゃないの〜?」
「お求めやすいお値段でぇっ!」
ライダーと赤ジャケットの男のやりとりに、黒い帽子の男がふたりの頭をパンパンと順に叩いた。
「お前らキンキンキンキン叫びやがって、うっせぇんだよ!誰かに見つかったらどうすんだよ!
それに明石家さんまと松尾伴内のお約束のやりとりなんか関西人しかわかんねぇだろバカ!」
「何だよ〜?!お前だって『花王名人劇場』のトレードマークみたいな格好してるくせに〜!」
「なんだとテメ」
「・・・いい加減にしないと・・・3人とも斬る。」
盗みに入る前とは思えない大声の口喧嘩に、袴の男が刀を抜いた。
「ご、ごめんヨウイチ・・・」
「そ、それだけは勘弁・・・」
「わ、悪ぃ・・・」
3人が慌てて謝り、やっと静寂が訪れたところで、ヨウイチと呼ばれた袴の男が刀を木の鞘に収める。