「おい。」
運転席のテツヤが前を向いたままカオルに声をかける。
「ん?俺?」
「ほらよ。」
テツヤはなおも正面を向いたまま、後部座席へ何かを投げた。
「あ!俺の!」
それを受け取ったカオルが驚いたような声を上げる。
「お前なぁ・・・盗みに入るってのに、自分の愛用の銃持って行くの忘れるってひどくないか?」
「いや、持ってたつもりだったのになぁ〜。あれ〜?」
「そんなことだろうと思った・・・」
首を傾げるカオルを見て、ヨウイチがため息をついた。
「待てぇ〜!!カオル〜!!」
背後からユウジの声が聞こえてきた。
「げぇ!また出た!」
振り返ると、ユウジがパトカーの助手席から身を乗り出し、拡声器を持って吼えている。
パーン、パーンと銃を撃つ音と、車体に弾丸が当たる音がする。
「今日こそはお前をひっ捕まえてやるからな〜!!」
「んもぅ!!」
カオルは愛用の拳銃を握り直し、追いかけてくるパトカーのタイヤを狙って引き金を引いた。
パァーン!!
その1発は見事命中し、パトカーのタイヤは大きな音を立ててパンクした。
バランスを崩したパトカーは大きく蛇行を始める。
「のぁっ!・・・何やってる!?早く追わんかっ!!」
ユウジが運転席に座る警官に怒鳴り散らしている。
「ユウジ〜、これ、あげるよ〜。」
カオルはポケットをまさぐり、適当に掴んだ宝石をひとつ投げた。
緑の石は、スピードを下げながら蛇行を続けるパトカーに乗るユウジの胸元にうまく飛んで行った。
「んなもんいら〜ん!こんな宝石ひとつで許されると思うなよ!くっそ、覚えとけっ!次は絶対捕まえてやるからな!!」
ユウジの声とパトカーの姿が、徐々に小さくなっていく。