12.結。
トラックが見えなくなり、数時間ぶりに部屋に戻った俺は自分の目を疑った。
黒沢の姿が辛うじて見える程度にまで薄くなっていたからだった。
「黒沢ぁっ!」
俺の呼び掛けに眉間に寄った皺がぴくっと反応を示した。
「黒沢!消えるなよ黒沢!」
「てっちゃん、早く!」
「おぅ!」
俺たちは病院で書いたメモを頼りに黒沢の住んでいた時の部屋を再現していった。
最後にテレビを窓際の隅に置くと、俺の部屋とは全く違う、見慣れない部屋が完成した。
「黒沢!目を開けろよ!お前の部屋だぞ!早くここに帰って来いよ!行くなよ!」
俺の呼び掛けに黒沢は閉じていた目をゆっくりと開けた。
そして瞬きをした後、目だけで部屋を見渡した。
「・・・あ・・・俺の・・・部屋・・・?」
黒沢は小さな声で絞り出すように言った。
「お前の部屋はここだろ!?ここしか帰るとこがないんだろ!?だったら帰って来いよ!」
「黒ポン!俺たちも黒ポンがこの部屋に帰ってくるの待ってるんだ!だから!ねぇ!」
安岡が透ける姿に縋るように、床に手をついた。
「俺たちだけじゃなくて、お母さんも妹さんも、家族の人みんな黒ポンの帰りを待ってるんだよ!?」
北山も必死に訴えかける。
「また一緒に歌いましょうよ!あなたに歌ってほしい歌があるんです!あなたにしか歌えない歌があるんですよ!」
酒井も黒沢に思いの丈を伝える。
「・・・ここに・・・帰ってきて、いいの・・・?」
「当たり前だろ!お前の部屋なんだから!」
「・・・そっか・・・」
黒沢は小さく笑顔を見せた後・・・すぅっと姿を消してしまった。