9.縁。
ジーンズのポケットから携帯を取り出し、建築現場のバイト先の親方、通称「おやっさん」に電話をかけた。
俺はなぜかおやっさんに気に入られていて、常日頃から「何か困ったことがあったらいつでも言ってこいよ」と男前なことを言われ続けていたのだ。
「もしもし、おやっさん?俺です、村上です。」
『おぉ、村上!どうした〜?何かあったか?』
「今すぐ△△駅の辺りから大学の近くまで家財道具運びたいんですけど・・・なんかいい方法ないですか?」
『お。それなら俺の同級生紹介してやるよ。今そっちの方で個人で運送屋経営してるから。』
「ホントですか?!」
さすがおやっさん!顔が広い!
『俺から電話してやるから。どういう段取りにすりゃいいんだ?』
黒沢の実家と俺の部屋の住所、今ワケあって○○町の総合病院に友人と3人でいること、もし可能であれば俺たち3人も乗せていってほしいということを伝えた。
『ちょっと待っとけ。また俺から折り返し連絡してやるから。』
「お願いします。」
電話を切り、空を見上げる。
頼む・・・
あいつを助けてやってくれ・・・
柄でもなく月に向かって祈りを捧げる。
この際、柄なんて関係ない。
着信音が鳴る。
おやっさんからだ。
「村上です。」
『俺だ。今から20分ぐらいで病院に着くそうだ。お前らをそこの病院で拾ってから荷物取りに行くってことでいいな?』
「はい!・・・あ、同級生の方のお名前は?」
『ジュン。紺のトラック乗って行くってさ。“小学校の時、隣の家のマキちゃんと公園で
ちちくり合ってた”って言ってくれたらわかるから。』
「ははっ!何すか、それ!言ってみます。ありがとうございます。」
『いいってことよ。一生懸命マジメに働いてくれた礼だ。また何かあったらいつでも電話してこいよ。』
「おやっさん!本当にありがとうございました!」
おやっさんに見えるわけないのに電話を耳に当てたまま頭を下げた。