「こんなとこはどうですか?ワンルーム、オートロック、憧れのデザイナーズマンション!」
オヤジはバインダーから物件の間取り図をいくつか取り出した。
「うっわ、高っ!」
家賃と敷金礼金を見て、思わず声を上げる。
「・・・お兄さ〜ん、これでも安い方ですよ〜?」
オヤジが困惑した表情を浮かべる。
「いや、そう言われても・・・俺にとっては高いんだよ・・・。
オートロックとかデザイナーズなんちゃらとかじゃなくていいからさ、どこかない?掘り出し物のさぁ〜・・・」
「・・・掘り出し物、ですかぁ〜・・・?」
オヤジは声のトーンを落として聞き返す。
「お願い!もっともっ〜と安いとこ、ない?!」
店のオヤジに向かって拝み倒す。
「ん〜・・・なくは、ないけどねぇ〜・・・」
オヤジは渋々別の間取り図を取り出した。
「これ、なんだけどね・・・。」
「安っ!これ、アパートか何か?」
「いや、築年数はちょっと経ってるけど、れっきとしたワンルームマンション。
もちろん風呂とトイレは共同じゃないし。古い物件だからオートロックじゃないんだけどね。
大学まで歩いて5分ぐらいのとこ。即入居可だよ。」
「ここ、見せてください!」
こんなオイシイ物件はない。
ここで躊躇って他のヤツに先越されたら悔しいからな。
「じゃ、行ってみる?歩いてすぐそこだけど。」
「お願いしますっ!」
オヤジとふたり、本当に徒歩で例の部屋を見に行く。
「そこだよ。」
オヤジが指を差す。
「近っ!」
「すぐそこって言ったろ〜?ここの201号室。」
「へぇ〜、角部屋っすか。」
オヤジの言うとおり、外観を見ても新しいマンションではないけれど、一人暮らしなら全く無問題(モーマンタイ)だ。
オヤジが玄関のドアの鍵を開けた。
「中はこんな感じ。どうぞ〜。」
部屋は予想していた以上に広かった。
物がなくガランとした状態だから広く見えるというだけではなく、多少家具や家電を置くことを計算に入れても十分すぎるほど広い。
外観同様、古さは見られるが、窓も大きく解放感がある。
「ここ、いいっすね!」
俺は興奮気味に感想を伝えた。
「ここ見た人、みんなそう言ってくれるんだけどね〜。」
オヤジは部屋の各部分を指差し確認しながら見回っている。