りびあろ〜ん +α(プラスアルファ)
1.借。
「お兄さん、部屋をお探しで?」
大学近くの不動産屋の店先に貼られた物件を見ていると、店のオヤジに声を掛けられた。
「えぇ、まぁ。」
間取り図を見つめたまま答える。
「そうかそうか!じゃ、入って行きなよ〜!いい物件あるよ〜!」
店のオヤジに腕をとられ、強引に店の中に連れ込まれた。
「いたたたたっ!なんすか!?アンタ、悪質なポン引きか!」
捕まれた腕を振りほどいて服の乱れを正す。
「んもぉ、そんなに怒らないでくださいよぉ〜。熱いお茶でいいかな?」
オヤジは俺の返事も聞かずに店の奥に消えて行くと、お盆に湯呑2つと急須を乗せ、戻って来た。
「お兄さん、G大の学生さん?」
「ええ、まぁ・・・」
「またこの時期にどうして?」
確かに。オヤジの質問はもっともだ。
学生ならば入学シーズンに部屋を借りるのが定番なのに、今はもうすっかり秋、だもんな。
「俺・・・家が田舎で通学に2時間かかってるんすよね・・・」
「2時間!?そりゃダメだ!」
何がダメなのか懇々と問い詰めたいところだが、ここはグッと堪える。
最初は通えると思ってたんだ、俺だって。
ところが、講義に加えて、サークルだゼミだ飲み会だとイベントが増えるごとに通学時間はかなりの重荷になった。
1時間目の講義に出席するには早朝に起きないといけない。
特に冬場は日も出てなくて、とってもせつない気持ちになる。
近くに下宿する地方の学生なんかは終電なくなるまで飲んでるのに、俺は夜9時半リミットでこの街を出ないと家に帰れなくなる。
飲み会の時、いつも早い時間にひとり店を出るから、何時の間にやらついたあだ名が「箱入り娘」・・・。
あまりのショックに、俺は勉学する間も惜しんでアルバイトに命を注いだ。
大学の近くで部屋を借りるためだ。
通学で往復4時間を費やすことによって、バイトの時間も必然的に短くなる。
そのせいで金はなかなか貯まらなかった。
俺は夏休みに勝負を賭け、ほぼ毎日のように建築現場のバイトに入った。
肉体的にもかなりきつかったが、おかげで一人暮らしできるだけの費用が手に入った。
で、現在に至るワケだが。