←BACK


病院に到着して宿直のガードマンに病室を教えてもらい、黒沢の元へ急ぐ。

 

あいつの名前のプレートが貼られた白いドアには、「面会謝絶」の札がかかっていた。

「面会謝絶・・・かぁ・・・」

 

ドアのそばに置かれた長椅子に俺の母親と同年代の女性が腰掛け、ハンカチで涙を拭っている姿が目に入った。

俺たちはその人の前に立った。

「黒沢・・・くんのお母様ですか・・・?」

女性は俺たちを見上げ、小さく頷いた。

「僕達、黒沢くんの大学の同級生です。黒沢くん、今どうなんですか?」
「血圧と・・・心搏数が・・・だんだん下がってきて・・・今、先生と看護婦さんが付きっきりで・・・。
夫は病室で看てるんですけど、私はあの子が苦しむ姿 見てられなくて・・・もうどうしたらいいのか・・・。」

黒沢のお母さんは膝の上でハンカチを握り締めている。

「お母さん、こんな時にこんな話聞くのおかしいのかもしれないんですけど・・・僕達、黒沢くんが事故に遭ったこと知らなかったんです。
詳しく教えてもらっていいですか?」

妹の時と同じ過ちを犯さないように、俺は頭の中で文章を組み立てながらお母さんに尋ねた。

お母さんはハンカチでもう一度涙を拭った後、顔を上げた。

「大学に入って1ヶ月ぐらい経った頃だったかしら・・・
大学の講義の後、居酒屋でバイトして部屋に帰る途中で・・・暴走した飲酒運転の車が後ろから突っ込んできて・・・。
奇跡的に命は助かったものの、身体はもうひどい有り様で・・・包帯だらけの身体を見た時のショックは忘れられませんよ・・・。
病院に運ばれた当初は生死の境を彷徨って、予断を許さない状態だったんです。
2週間ほどでなんとか病状は落ち着いてきたんですが、それ以降あの子は眠り続けたままで・・・。
怪我が治った段階でこっちの病院に転院させたんです。」

お母さんは涙をポロポロ零しながら、息子の話を聞かせてくれた。


→NEXT

→目次

→シネマTOP