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「安岡に報告しとくよ。」
携帯を取り出し、安岡に電話をかける。

「もしもし、俺。」
『どうだった?』
「実家の住所はわかった。手がかりになるかわかんねぇけど、とりあえずこれから向かってみるつもり・・・そっちは?」
『今少し落ち着いたみたいで眠ってるんだけど・・・黒ポンのシルエットが・・・ほんの少しだけど薄くなってる気がする・・・』
「何だって?!」
『だから早くなんとかしてあげてよ。お願い・・・』
「わかった!引き続きそっち頼むな。じゃ、またあとで。」

「で、黒ポンどうだって?」
ふたりが心配そうに俺の返事を待っている。

「姿が・・・少しずつ薄くなってきてるらしい・・・」
「そんな・・・!」
「急ごう!」

 

 

 

最短時間で到着することができる経路で黒沢の実家へ向かう。

急行列車の中、3人並んで座った。
皆、一様に黙ったまま、窓の外の過ぎ行く景色を見つめていた。

 

あいつが現れた当初、出て行ってほしい、消えてほしい、そんなことばかり願っていた。
それが今では、あいつの苦しみを取り除いてやろう、あいつが消えないように守ってやろう、と奔走している俺がいる。
早くあいつを助けてやりたいと思う。

その反面。
同時に不安も募ってくる。

あいつが消えていくのを必死に引き止めようとするこの行為は正解なのだろうか。
あいつにとって、消えていくことは悪いことなんだろうか。
あの部屋に居続けることがいいことなんだろうか。

答えなんか見つかっちゃいない。
けれど、それでも・・・なんとかしてやりたいんだ、黒沢のこと・・・

 

「なぁ。なんで黒ポンは苦しんでるんだろうか。」
酒井が突然呟いた。

神様というものが本当に存在するとしたら、その神様って奴はよっぽど性格が悪いに違いない。

煙がやがて空気に溶け込むみたいに、穏やかに消し去ることだってできるはずなのに・・・
なぜ命のないあいつを消し去る際に、真綿で首を絞めるような苦しみを与え続けないといけないのか。

 

なぁ、神様。

ホントにいるのなら・・・あいつを、黒沢を助けてやってくれ・・・。


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