7.馳。
気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。
いつもたくさんの職員が働いている学生課も半分明かりが消え、若い男性職員がひとり残って残業しているだけになっていた。
「すいませ〜ん。」
カウンター越しに声を掛ける。
「はい?何の御用でしょう?」
指で小さく眼鏡を押し上げながら、職員がこちらに近づいてくる。
「去年入学したと思うんですけど、黒沢って学生のこと教えていただきたいんですけど。」
「申し訳ないんだけど、そういう個人情報は教えられないんですよね〜。」
「そこをなんとか!」
「どんなことでもいいんです!お願いします!」
「そう言われましてもねぇ〜・・・」
職員は困惑した表情を見せる。
「人の命にかかわることなんです!なんかあったらあなた責任とってくれるんですか!?」
酒井がものすごい剣幕で職員に詰め寄る。
「のちのち問題になったら俺ら退学になっても構いません!『学生部に乗り込んできて脅された』ってことにしてもらってもいいから!
頼みますよ!悪用しませんから!」
俺も必死に加勢する。
「・・・何があったか知りませんが・・・今回だけ特別に調べてみましょうか・・・そのかわり本当に内緒にしといてくださいよ・・・」
職員は自分の席に戻り、キーボードを叩きだした。
「『命』ってお前・・・あいつ、おばけなのに・・・」
職員に聞こえないように酒井に言う。
「自分が人の命を左右するとなると断りにくくなると思ってね。あれぐらい言ってもバチは当たらんでしょう。」
「ふたりともすごい気迫だね・・・俺何も言えなかった・・・」
北山がぽつりと呟く。
「いや、ひとりぐらい冷静な奴がいないとな・・・」
「去年入学で黒沢って名前の人は3人いるけど?学部は?」
職員が画面を見つめたまま質問してくる。
「学部はわからないんですけど・・・3人のうち男は何人なんですか?」
北山が別の質問で切り返す。
「え〜っと・・・ひとり。ひとりですね。」
職員は画面を指差しながら答えた。
「それだ!」
「こちらの方ですかね?」
職員がモニターを少しこちらへ向ける。
そこに映っている顔写真は間違いなく黒沢のそれであった。
「その人です!」
「住所だけとかでもいいですかね・・・それ以上はちょっと・・・」
「構いません!・・・北山、黒沢の住所、携帯にメモってくれ。」
「了解。」
職員が読み上げる住所を北山が携帯のメール作成画面に早打ちで入力していく。
「黒ポンも実家遠いんだね・・・ここから電車で2時間ぐらいかかるんじゃない?」
酒井が携帯で地図と路線を調べる。
「住所以外の情報はやっぱり無理ですか?」
俺はもう一押しを試みた。
「これ以上詳しいものは成績や単位の取得状況などになってくるので教えられませんね。
ホントは住所とかもダメなんですから。これで勘弁してください。」
職員が頭を下げた。
「こちらこそ、無理言ってすいませんでした。ありがとうございました。」
北山も職員に頭を下げた。