講義が終わると同時に4人で俺の部屋に向かった。
音を立てないようにそ〜っと鍵を開け、ドアノブを回す。
部屋の中から歌声が聞こえてくる。
俺は後ろの3人に静かにするようにゼスチャーし、忍び足で部屋に入る。
黒沢は気づいてないのか、部屋の真ん中で寝転がったまま熱唱中だ。
皆、息を潜めて聞き入っている。
歌い終わったところで一斉に拍手が沸き起こった。
もちろん俺も拍手を送る。
「うわっ!?何っ?・・・あ〜、ビックリしたぁ!」
黒沢はいきなりの拍手に飛び起き、目を白黒させている。
「お前、歌うまいな。」
「すごいすごい!」
「そ、そうかなぁ・・・」
顔を真っ赤にして照れくさそうに頭をポリポリ掻く黒沢。
「俺らもサークルで歌やってるんですよ。ね?」
「北山、音とって。」
北山がポケットから音叉を取り出し、音をとる。
その様子を、黒沢は不思議そうな顔で見つめている。
指を鳴らし、4人でハーモニーを奏でると、黒沢は心地よさそうにそれを聞いていた。
歌が終わったところで、黒沢が拍手する。
「みんなの方こそうまいじゃん!俺なんて自己流で足元にも及ばないよ。」
「そうだ、黒ポン。今からサークルの部室遊びに来ない?一緒にハモってみようよ。」
さすが北山!ナイスアシスト!
「え?でも俺、透明になるよ?一緒に出掛けても、俺のこと見えなくなるんじゃない?
・・・この身体になってから誰とも行動を共にしたことないから、わかんないんだけど・・・」
「じゃあ試しに確認してみようか。」
俺以外の4人が玄関のドアに向かう。
ドアを開けたり閉めたり、出たり入ったりしているさまを、俺は部屋の真ん中に座り、ぼんやりと見つめていた。
それにしても知らなかったなぁ、黒沢にあんな才能があるなんて。
正直、サークルに入ってもらいたいぐらいだ・・・って、おばけだけに幽霊部員になるかな。
4人がわいわい言いながら部屋に戻ってくる。
「結論。黒ポンが外に出て透明になっても、俺らにはうっすらぼんやり見えてる。ただし、鏡や携帯のカメラには映らない。
隣に住んでるお姉さんには全く見えていなかったみたいで、通路に立ってた黒ポンの身体のど真ん中を通り抜けていったよ。」
「なら大丈夫なんじゃね?黒沢、行ってきたら?」
「あれ?村上は行かないの?」
「俺は今日は疲れたから寝る。」
「ふぅん・・・」
行くわけないだろ。
これから重要な任務が待ってるのにさ。
「じゃ、行こうか、黒ポン。」
「は〜い。じゃ村上、行ってくるね〜。」
バタン。
ドアが閉まる音がした。
時計を見る。
よっし!始めっか!
1時間半後。
黒沢がご機嫌で帰ってきた。
「おぅっ、おかえり!」
「ただいまぁ!って、あれ?起きてたの?」
「お、おぅ・・・1時間寝たらすっかり元気になった。」
「ホントだね、さっきより顔色よくなってる。」
俺が寝てるという設定、もう忘れてると思ってたんだが、覚えてやがったな・・・油断してたからちょっと焦ったぞ。
「で、どうだった?サークルは。」
「3人から歌い方とかハモり方とかいろいろ教えてもらったよ〜。すっごい楽しかった!
周りの人たちには俺の姿が見えないから、『コントか何かやってんの?』って怪訝そうに聞かれてたよ。」
「ははっ!あいつら普段から変わってるから大丈夫だろ。」
「今まで出掛けるのはいつもひとりだったから、みんなと外に出れてうれしかったよ。
・・・さてと、村上も寝てすっかり元気になったし、俺も疲れたから寝るわ。」
「おぅ。お疲れ。」
黒沢は俺のふとんの上にごろりと寝転んだ。
幸せそうな寝顔で寝息を立てる黒沢を横目に、俺はバイト先へ向かうため部屋を後にした。