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サークル活動を終え、俺は重い足取りで部屋に戻った。

「おかえり〜。」

ほら・・・いるよなぁ、やっぱり・・・。
黒沢は半透明の身体で壁にもたれるように座っていた。

俺は帰って早々、買ってきたコンビニ弁当を開けた。

「ねぇねぇ!」
「・・・あ?」
「テレビ、点けて。俺、こんなだから電源入れれなくて〜・・・」
頭をポリポリ掻きながら、申し訳なさそうに言ってくる。

俺は黙ったままリモコンのスイッチを操作した。

「え〜!野球観るのぉ?」
おばけのくせに不満げにブーたれやがる。

「秋に野球を観ない馬鹿がどこにいんだよ?」
「は〜い、ここに〜。」
正座して右手を高々と挙げる。

「知るか!俺のテレビだから文句言うな。くやしかったら自分で買ってこい!ボタンぐらいは操作してやるから。」

 

このところの自分の発言を振り返ると、つくづく俺はケチなんじゃないかと思ってしまう。

けどな、こいつときたら・・・俺が汗水垂らして稼いでやっとの思いで手に入れた部屋に許可もなく居座り、出て行く気配もない。
しかも礼のひとつも言わない。

俺だって文句のひとつやふたつ、いや800ぐらいは言いたくもなるよ。

仕方なくここにいさせてやってるのに、というかここから消えてくれないだけなんだけど・・・
なんちゅ〜か・・・こいつの遠慮のなさが俺の感情を逆撫でするのだ。

だからつい口調がきつくなるというか・・・。
まぁ言われている本人は、特に気にしてる様子ないみたいだけどな。

 

「黒沢。あのさ。」
「ん?」
黒沢は野球を観ながらうわの空で返事する。

「ホントにこの部屋にずっといるつもりなのか?」
「う〜ん・・・自分でもこの先どうしていけばいいのか、わからないんだ。」
「わからない?」
「うん。さっきみんなが来た時にも言ったけど、ここから出るとカラダが疲れちゃってダメなんだ。
ここに住む人に迷惑かけちゃうし、何度か出て行こうと試みたことはあったんだけど・・・。」
「ダメだったのか?」
「うん・・・以前、部屋から出てどれくらい我慢できるかやってみたんだ。
3時間ぐらいまではなんともなかったんだけど、それを過ぎるとだんだん身体がだるくなってきて、息苦しくなって・・・
見える見えないの問題じゃなくて、俺そのものの存在が消えそうになったんだ・・・。
恐くなって必死の思いでこの部屋に戻ったよ。ホント、あの時は死ぬかと思ったよ。」

ところどころおかしな言い回しもあるが、何だか気の毒に思えてきた。

「なぁ。」
「何?」
「ここに・・・いてもいいぞ。」
「ホントに?!いいの?」
「どうせダメだって言ってもここに居座りつづけるんだろ?だったら好きなだけいれば?」
「・・・村上・・・ありがとう・・・」

黒沢は俺に向かって深々と頭を下げた。
こいつから初めて感謝の言葉聞いたかも。

俺は照れくさくなって、野球に見入るフリをした。


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