5分ほど歩くと、動物病院へ到着した。
ガラスの扉を押して中へと入る。
「いらっしゃいませ〜」
診察室の方から、男の声がする。
「い、いらっしゃいませ?!」
「わふっ。」
病院にふさわしくない出迎えの言葉にユタカはオウム返しし、犬も何やら言った。
中から白衣にサンダル履きの獣医らしき男がニコニコ笑いながらやってきた。
「何名さま?」
「え・・・ひとりと、犬1匹・・・」
「ご案内いたします。こちらへどうぞ〜。」
獣医はパタパタとサンダル特有の足音を立て、診察室へと向かっていく。
ユタカもその後をついていった。
「は〜い。今日はどうしましたぁ〜?」
獣医は、のんびりとした高い声で尋ねてきた。
「えっと、後ろ脚を怪我してるみたいで・・・。」
背中から犬を診察台の上にそっと降ろしながら答える。
「あ〜、ほぉんとだ〜。これはちょっと縫わないとダメだね〜。」
犬がビクッとした顔で獣医を見上げる。
獣医は満面の笑みで犬の頭を撫でた。
「大丈夫大丈夫。俺、こんな感じだけど意外と腕はいいから。」
『こんな感じ』って!たしかにちょっと不安に感じたけどさぁ〜・・・と言いそうになるのをユタカはグッと我慢した。
「え〜っと麻酔。麻酔。どこ置いたかな・・・麻酔・・・増位山・・・。増位山って歌うまいんだよ。知ってる?」
「あの〜、増位山の話はいいんで、早く治してもらえます・・・?」
「あ、はいはい♪」
獣医は鼻歌交じりで麻酔薬を探している。
おそらく増位山の歌なのだろう。
「あ、あったあった!」
小さな薬瓶に注射器の針を差し込み、それに適量を取り出した。
そして空気を抜くために軽く一押しした後、笑顔のまま後ろ脚にグサッと射した。
「きゃうんっ!」
ユタカは暴れる犬を押さえながら、獣医に声をかけた。
「あの〜・・・」
「はぁい。何ですか〜?」
「オレ、素人なんでよくわかんないんですけど・・・それ、注射する脚、逆じゃないですかね・・・?」
「・・・・・・あ〜!ほぉんとだぁ〜!いやっはっはっはっ!間違えちゃったよゴメンゴメン!」
犬は獣医の表情から話の内容を読んだのか、怯え始めた。