ユタカとテツヤは、ヨウイチと父親のやりとりをじっと見守っていた。
ヨウイチは真相を究明しようとなおも質問を続けた。
「じゃああなたもそのウィルスを作り出してた訳ですか。」
「・・・私ね、学生時代、ハッキングやってたんです。官庁や大企業のサーバに不正にアクセスして、データを盗んだり書き換えたりしていた。
誰かに頼まれてやったワケじゃない。ゲームを攻略するような感じで、それを楽しんでたんです。
でもいつまでもそんなことを続けていくつもりはなかった。全うな会社に就職しようと思って、大学3年の時、ここの入社試験を受けた。
けど、会社は知っていた・・・。」
「あなたの、過去を?」
「えぇ。数ヶ月前のことです。いきなり別室に呼ばれて、私がハッカーをやっていた時の証拠を目の前に突き付けられた。
そしてウィルスを作るように命じられた。この命令を知ってしまった段階で私には逃げ道は残っていなかった。
断れば・・・会社は、秘密を知ってしまった私を消していたでしょう。
断れる状態じゃなかった・・・この一室に詰め込まれ、ずっと見張りをつけられて・・・後悔先に立たずとはこのことですよ。
遊びでやってたことが自分の首を締めるなんて思ってもみなかった・・・。
妻と息子がこんな汚れた仕事で養われてると知ったら・・・。もう家族に顔向けできません・・・。」
父親は頭を抱えて嗚咽を漏らした。
「け、けどそれはっ・・・脅されて仕方なくやっただけじゃないですか!こんなの監禁じゃないか!
息子さんはそんなことであなたを軽蔑なんかしない!だから息子さんの元へ早く帰ってあげてよ!」
ユタカは必死に父親を説得する。
「けど、捕まったら帰れないんですよね?刑事さん。」
「ええ、逮捕されるかどうかはわかりませんが、警察で事情聴取していただかないといけません。
監禁の被害者ですからね。これから警察に来ていただきます。」
「そんな・・・息子さんが待ってるのに・・・」
ユタカは悔しさに唇を噛んだ。
「刑事さん・・・その前に、お願いがあります。」
「何でしょう?」
「ここの隠し部屋には、私と同じように技術者がたくさん監禁されています。助けてやってくれませんか?それと・・・」
「それと?」
「社の上層部は、この問題が表沙汰になった時用に強力なウィルスを保有しています。
それが起動してしまうと、瞬く間に全世界に拡がり地球上のすべてのコンピューターが停止してしまいます。
それが起動する前に何とか阻止しないといけません。ウィルスはこの先にある大きな扉の向こうにあります。」
「サイバーテロか・・・何故そんなことを・・・」
さすがのヨウイチも、この世界が混乱するであろう危機に焦りの表情を見せた。
「証拠隠滅のためですよ。すべてのコンピューターが機能しなくなったら、我が社が自作自演していた証拠も一瞬にして消えますからね。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!ワクチンあるんでしょ?!」
「いや、我が社が秘密裏に作ったウィルスの中で唯一ワクチンがないものなんです。
それに感染力も強烈だ。一度起動したら最後、ワクチンを配布する暇なんてない。」
「そんな・・・!何とかしないと!」
ユタカも事の重大さを理解した。
「テツヤ、お前はユタカと一緒に他の部屋に監禁されている技術者の救出と保護に当たってくれ。
俺は彼と一緒にウィルス起動を阻止する。」
「わかった・・・行くぞ、ユタカ。」
「うん!」
4人は足早に部屋を出て、二手に分かれた。