「・・・で?その父親は?今はそっちの方が重要だろ。」
ヨウイチはユタカとテツヤの顔を交互に見ながら尋ねた。
ユタカはまだぶたれた頬に手を当てたまま呆然と立ち尽くしている。
「父親の匂いを感じる。恐らくこのフロアにいるだろうな。」
「わかった。じゃあこれからその父親を探しにいこう。
・・・ユタカ、今日のところは許してやる。今日はお前のことを全力で守ってやるから、二度とこんな危険な真似しないでほしい。いいな?」
「うん・・・ごめんなさい・・・」
目を合わせられないまま、ユタカはヨウイチに向かって頭を下げた。
「お前もわかってる?ユタカをしっかりと守ってね。これからはユタカを巻き込まないでほしい。」
「あぁ・・・わかっている。ユタカは俺の大切な飼い主だ。命懸けで守る。」
「よし。わかればいいよ。じゃあ行こう。」
ヨウイチは、ユタカとテツヤの肩を同時にポンと叩き、歩き出した。
消火ホースの隠し扉から続く通路を、さらに奥へと進んでゆく。
「こんなに部屋がたくさん並んでるけど、中に人はいるのか?」
前を見据えたまま、ヨウイチがテツヤに尋ねる。
「空き部屋もいくつかあるけど、それ以外はだいたい3人ずつぐらい入ってるみたいだな。」
「3人ずつ、か。何か意味があるかもしれないな。」
突き当たりにある大きな扉の少し手前で、テツヤが突然立ち止まった。
「どうした?」
「父親の、匂いだ。」
テツヤは右側のドアを指差す。
ヨウイチが慎重にノブを回すが、今度はキッチリと施錠されていた。
「今度は本当に見られたくない何かがあるのかもしれないな。」
「誰かが出てくるのを待つしかねぇのか・・・」
「いや・・・一か八かやってみる・・・静かにして。」
ヨウイチは、人差し指を口に当てた。
そしてドアをノックした。
「・・・はい。」
ドアの向こうから凄味のある返事が帰ってくる。
「・・・俺だ。」
ヨウイチが低い声を作り、答える。
ユタカを捕らえていたリーダー格の男の声色にそっくりだ。
内側からカチャリと解錠した音がして、ドアが開かれた。
「お疲れさ・・・」
ドアを開けた男の鼻を目がけてヨウイチが強烈なパンチを叩きつける。
それが見事にクリーンヒットし、男はその場に崩れ落ちた。
「おいっ、どうした?!」
ドア付近での異変に気づき現れた男に、今度はテツヤが膝蹴りを腹部に食らわすと、素早く男の首の後ろに両手を回し、膝で顔面を蹴り上げた。
「ヨウイチ兄ちゃん、そんな低い声出るんだ・・・初めて知ったよ・・・」
ユタカが驚きのあまり目を見開いた。
ヨウイチは「まぁね。」と低音で答えた後、声の高さを元に戻し「じゃ入ろうか。」と言いながらドアを大きく開けた。