音を立てないようにドアを開け、抜き足差し足で細い通路を進んでゆく。
3メートルほどの通路を抜けると、そこはガランとした空き部屋になっていた。
その奥に屈強な男6人が待ち構えており、そのうちのふたりがユタカの両腕をしっかりと捕まえていた。
「思ってた以上に早いですねぇ。」
敵のひとりがユタカの前に歩み出て、ヨウイチとテツヤの前に立ちはだかった。
どうやらこの部屋にいる連中のリーダー格のようだ。
「ヨウイチ兄ちゃん!テツヤ!」
「ほぅ、このコスプレ野郎たちが刑事さんのお知り合いとはねぇ。」
リーダー格の男がニヤリと笑いながら低い声で呟いた。
「・・・おい。」
テツヤが不満げな表情を浮かべて、一歩前に歩み出た。
「あぁ?」
リーダー格の男が片眉をつり上げ、テツヤを睨みつける。
「てめぇに用はねぇんだよ。」
「は?」
テツヤは構わずズカズカと歩みを進め、呆気にとられている男の横をすり抜けると、捕らえられたままのユタカの脇腹をツンツン突いた。
「おい、お前なぁ・・・何でヨウイチの名前呼ぶ方が先なんだよ?」
「ぎゃははっ!くすぐったぁっ!」
「もう助けてやんねぇぞ。」
「だってっ!ぎゃははは!ヨウイチ兄ちゃんが先に見えたんだもん!しょ〜がないじゃん!ははっ!や〜め〜ろって〜!」
テツヤとユタカの繰り広げる不思議なワールドに唖然としている敵の不意を突き、ヨウイチが目の前にいる男に両の拳を連打で殴りつけた。
テツヤもその様子を見てやっと戦闘態勢に入り、ユタカを捕らえていたふたりにハイキックを食らわせた。
解放されたユタカは、見よう見真似で弱った敵にとどめを刺していく。
そしてとうとう敵の男たちはひとり残らず床にのびてしまった。
「はい、一丁上がりっと♪」
ユタカが両手をパンパンと叩(はた)いて、笑顔を浮かべた。
「お前何もやってねぇじゃん。敵に捕まるしよぉ。」
テツヤは呆れたようにユタカを見やった。
「何だよ!俺だって好きでこんなことしてるワケじゃないんだからな〜!
無理矢理連れて来られてさぁ、いい迷惑だよコッチは!」
喚き散らすユタカと対照的に、普段どおり冷静なままのヨウイチがようやく口を開いた。
「で?これはどういうことなの?説明してよ。」
そっぽを向いて説明しようとしないテツヤに代わり、ユタカが説明する。
「いやっ、これはね、あの〜、小学生の男の子が『パパが帰って来ない』って言ってたから、探してあげようと・・・」
「何それ。流行りの探偵の真似事?」
「うん・・・まぁ・・・あのさ」
「素人のクセにこんな危険な真似しちゃダメだろ!」
ヨウイチは突然声を荒げ、ユタカの頬を引っ叩いた。
いつもは冷静さを保って注意する程度にしか怒ったことがなかったヨウイチが、こんなに激しく怒鳴り、手を上げたのは初めてのことだった。
「たったひとりの大事な家族なんだぞお前は!自分を大切にしないと承知しないぞ!」
「・・・悪かった。」
謝ったのはテツヤだった。
「ユタカにいいトコ見せようと思って・・・。ユタカを無理矢理連れ出したのは俺だ・・・すまない。」
ヨウイチは大きくため息をついた。
ユタカはヨウイチと目を合わせることができなかった。
たしかにテツヤに強引に連れて来られたのだが、断ったり途中で帰ったりしなかったのは、少なからずこの探偵ごっこを楽しんでいる自分がいたからだ。
もし自分がいなかったら、ヨウイチは簡単に事件を解決していたかもしれないのに。
ヨウイチに迷惑をかけてしまった自分を情けなく思った。