「やっぱりさ、何かこのビルで起こってるのかなぁ。」
「あぁ、その可能性は大いに考えられるな。」
ヨウイチに聞こえないように一定の距離を保ち、ボリュームを下げて話しながら後を追っていると、ヨウイチがエレベーターの手前でぴたりと足を止めた。
ユタカとテツヤも咄嗟に止まる。
「あっぶなぁ〜ぃ・・・」
ユタカは帽子をより深く被り、ため息をついた。
一方のヨウイチは、ふたりの存在に気づいてないのか、エレベーター横の各階の案内表をじっくりと見た後、おもむろにエレベーターの▲(上)ボタンを押した。
エレベーターホールには3人だけ。
面が割れていない人型のテツヤは堂々とした様子だったが、ユタカは平静を装いつつも口から心臓が飛び出しそうなほどドキドキしている。
ぴんぽーん、と若干こもり気味の音がエレベーターの到着を知らせた。
ヨウイチが先にエレベーター内に入り、降りる階のボタンを押し、その前に立った。
ユタカはテツヤの背後に隠れるようにして中に入り、一番奥を陣取った。
ドアが閉まり、エレベーターは上昇を始める。
緊張と沈黙が続く。
「で。なぜ私を尾行してるんですか?」
ボタンの方を向いたまま、ヨウイチが尋ねてきた。
予期せぬヨウイチの質問にビクッと肩を揺らすユタカを尻目に、テツヤは動揺することもなく階数の表示を見つめた。
「警備のために巡回しているだけですが?」
「私が社内を歩き回ることに何か不都合でもおありですか?」
ヨウイチはようやく振り返りテツヤを見上げた。
ヨウイチはふたりに尾行されていることには感づいたが、偽物のガードマンだと気づいていないようだ。
「いえ。そのようなことは。」
テツヤがヨウイチの勘違いに乗っかった回答をする。
ビー、ビー、ビー。
突然、館内放送で警告音が鳴り響いた。
『館内に2人組が侵入した模様です。怪しい人物を発見した方は至急警備室まで通報してください。
警視庁よりお越しの北山様、犯人逮捕に協力していただきたいので警備室までお越しくださいませ。』
「テツヤどうしよう?!」
突然のアナウンスに動揺したユタカがテツヤに縋る。
「?!・・・その声は・・・」
ヨウイチがユタカの帽子を剥ぎ取った。
「ユタカ・・・何やってるんだ?」
「いや、あの、これには深〜いワケが〜・・・」
「しかも今『テツヤ』って言ったな?どうなってる?」
ぴんぽーん。
ヨウイチが押した階でエレベーターが止まる。
開くドアの隙間からエレベーターホールにスーツ姿の男が数人待ち構えているのが見えた。
「おらぁっ!」
ドアが開ききるよりも先に、男たちが一斉に3人を急襲した。
それをヨウイチが表情ひとつ変えず素早く仕留めていく。
「どうやら俺も標的になっているようだ。話は後だ。」
ヨウイチがふたりにそう言い残し、ひとりで先を急ぐ。
「俺らも行くぞ。」
「うん!」
ユタカとテツヤも後に続いた。