人気のない廊下をふたりで進んでゆく。
「ひぇ〜・・・ドキドキする〜・・・」
ユタカは、テツヤの背後に隠れるように身を屈めて歩いている。
「おい、普通に歩けよ。逆に目立つだろうが、ほらっ!」
テツヤは、ユタカの丸めた背中を手のひらでバチンと叩いた。
「いったぁっ!もぅ!アンタのお遊びに無理矢理付き合わされてるのにさぁ、何で叩かれなきゃいけないんだよ〜!!」
ユタカは拗ねながらも、背筋を正して先を急ぐ。
角を曲がるごとに徐々に社員の密度が多くなり、ついにビルの玄関ロビーに足を踏み入れた。
「ユタカ・・・ゆっくり俺の後ろに隠れろ。」
テツヤがいきなりユタカに小声で指示した。
「え?なんで?」
「お前の兄貴、来てんぞ?」
「え・・・」
ユタカはテツヤの陰に隠れて、テツヤが視線を送る先をそ〜っと覗き見た。
玄関のガードマンと話をしているヨウイチの姿が目に入った。
ガードマンは当初入館を断っていたが、警察手帳を見せ二三会話を交わした後、ヨウイチを受付嬢のところまで案内した。
「社長とお話があって伺ったのですが。」
再びヨウイチが受付嬢にも警察手帳を見せる。
「はぁ・・・はい。」
受付嬢は、警察が何の用なのだろうとでも言いたげな表情で、内線で連絡を取った。
「社長はあいにく外出しております。」
「じゃあ代わりにどなたか。」
「少々お待ちください。」
受付嬢はまた内線でやりとりし始めた。
「申し訳ございません。副社長、専務、常務は休みや業務で対応できる者がおりません。
総務部の部長が対応させていただくと申しておりますが。」
「そうですか・・・それなら結構です。少し社内を見学させてください。」
ヨウイチはそう言って足早に受付を離れた。
ヨウイチの突拍子もない行動に慌てた受付嬢がどこかに電話をかけている。
「ヨウイチの後を追うぞ。」
事の一部始終を見ていたテツヤが、ヨウイチを追いかけた。
「えっ?!ちょっと待ってよ!」
またも置いてきぼりを食らいそうになったユタカがテツヤを追走する。