テツヤはくんくんと匂いを嗅ぎながら歩みを進め、その後ろをユタカがテツヤのリードを持ってついて歩く。
「ねぇ・・・何やってんの?」
「ん〜?見てのとおり、探偵ごっこ。」
「・・・正直つまんないんだけど・・・」
「まぁまぁ。そうカリカリすんな。」
「だって服汚れちゃったんだもん!カリカリもするっちゅうの。」
「パイレーツ?」
「古いし寄せれないし!」
「っと。ここだな。」
テツヤは1軒の家の前で足を止めた。
「ん?ここどこ?」
「さっきのガキの家。」
「へぇ〜。」
テツヤは家の周りの匂いを嗅いだ。
「よし、OK。ここから父親の匂いを辿るぞ。」
テツヤはそう言うと、またも鼻を利かせながら進んでいった。
「あっそ・・・もう好きにして・・・」
「ここ、か。」
テツヤは大きく聳え立つビルの前に立ち止まり、上を見上げた。
「ここって・・・大手のコンピューター関係の会社じゃあ・・・」
「そうなのか?俺、パソコン使わないからわかんねぇんだけどさ。」
「そりゃあ、テツヤは犬だしねぇ、それほどの能力あるんだったらパソコンなんて必要ないよね〜。」
「まぁな。そんなこんなで、パソコンのこと全然わかんねぇから、頼むぞ。」
「た、頼むって何!?」
「じゃ、今からビルの中に入るぞ。」
「え?入るってどうやって?犬のままだと入れないでしょ?それに服だって持ってきてないし。」
「なんとかなるだろ。」
「ほ・・・ホントかなぁ・・・」
大きな自社ビルは、土曜日にもかかわらず、スーツを着た社員らしき人々の出入りが見られた。
玄関には、警備員が4人立っていて、社員証のない者はそこで止められていた。
ユタカとテツヤはその様子を窺った。
「アポイントは?」
「アポはとってなかったのですが、人材派遣の営業で・・・」
「すいません、アポのない営業はすべてお断わりしております。」
「そうですか・・・失礼しました。」
派遣会社の営業マンは警備員に頭を下げ、去って行った。
「こんなんじゃ入れないじゃん・・・」
「ホントだな。他に出入口がないか、探してみるか。」
「うん。」