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テツヤは前脚をユタカの口に当て、ユタカに静かにするように合図した。
そして息を潜めてベンチに座る人物を観察する。

小学生中学年ぐらいの男の子がランドセルを背負ったまま座り、周りをキョロキョロと見回している。

「タンテイさん、ホントに来るかなぁ・・・」

『君はその探偵に何の用だ?』
植え込みの中から、テツヤが少年に話し掛ける。

「えっ?!タンテイさんいるの?!どこ?!」
少年はベンチから飛び降りて後ろを振り返ろうとした。

『おっと、後ろを向くなよ?前向いたまま話してみ?』
テツヤの指示に、少年はピタッと体を固め、そのままの態勢で話し始めた。

「ん、っとぉ〜・・・パパが帰って来なくなったんだ〜・・・。
パパからデンワがあって『仕事がいそがしくて帰れない』って言ってたみたいなんだけど・・・。
ママね、パパがいなくなってからも元気にがんばってるフリしてるけど、ボクにかくれていつも泣いてるんだ・・・。
ママがかわいそうだから、パパに早く帰ってきてほしいんだ〜・・・」
『お前は泣かないのか?』
「うん。ボク男の子だもん。パパがいない間、ボクがしっかりしなきゃいけないもんね。」
『そうか・・・君のお父さんの持ち物、何か持ってるか?』
「んとぉ、パパが作ってくれた紙ヒコーキがあるよ。」
『じゃあそれを借りていいか?後から必ず返すから。な。』
「すっごい遠くまでとぶヒコーキだから、ゼッタイ返してよ?」
『おぅ、必ず返す。ベンチに置いて振り返らず帰ってくれ。その約束を守ってくれたら、ちゃんと調べてやるからな。』
「わかったぁ。じゃあタンテイさん、おねがいしま〜す。」

少年は、ランドセルの蓋の時間割を書いた厚紙の後ろから紙飛行機を取り出し、ベンチにそっと置いて走り去った。

「さってっと。」
テツヤは植え込みの下部を這ってベンチへと向かう。

「あっ、待ってよ、もぅっ!」
ユタカも置いていかれまいと植え込みを潜る。

テツヤは紙飛行機をクンクンと嗅いだ後、ユタカを見上げた。

「大切な紙飛行機、俺が噛むワケにいかねぇから、ユタカ預かっといて。」
「え、あ、うん。・・・っていうか!何だよ探偵って!今、流行ってるからマネし始めたの?!」
「ああ、まぁ、そんなとこだな。」
テツヤは返事もそこそこに少年が走り去った方向へ歩き出した。

「またそんなバカみたいなことして・・・って聞いてる?!」
マイペースなテツヤに振り回されっぱなしのユタカはまたテツヤを追いかけ、公園を後にした。


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