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カオルの犬は、ため息をついた後、ゆっくりと語り始めた。

「俺は、新しい飼い主が見つかると、人間の言葉を話したりこの姿に変身したりして、ありのままの自分を受け容れてもらおうとした。
だけどみな、俺を気味悪がって、簡単に捨てた。それまで可愛がってくれた飼い主が、まるで手のひらを返したようにな。
俺は人間不信に陥った。そんな時だよ、この人に出会ったのは。」

カオルの犬は、眠ったままのカオルに視線を向けた。

「『俺に構うな』って噛んで警告しても・・・この人は俺を撫で続けたんだ。マイったよ、全く。
仕方なくこの人に飼われることにしたんだ。最初は『どうせこいつも今までの飼い主と一緒だろ』って疑ってた。
だけど、この人と一緒にいると楽しくてな、『離れたくない。この人には捨てられたくない。』って気持ちが強くなってきてしまった。
だから俺は本当の姿をひた隠したんだ。」

ユタカとテツヤは彼の言葉を黙って聞き続けた。

「この人が高校生になった頃だったかな、『お前も人間で言ったらおじいちゃんぐらいの年だし、あっさりした食事の方がいいか?』って言われてな。
その時に気づいたんだ、『この人は俺のことを普通の犬だと思い込んでいる。なのに俺が死なずにこの人の傍にずっと居続けたら、俺が普通の犬じゃないってバレてしまう。』って。
だから俺は決めたんだ・・・俺の本当の姿がバレる前に、この人の元を去ろうってな。」

「そ、んな・・・カオル先生はそんなことで君を捨てるような人じゃない!」
ユタカは声を張り上げた。

「信じていた飼い主に何度も捨てられた俺の気持ちがアンタたちにわかるか?!
この人なら絶対に俺を捨てないと思ってる!けどそんな風に信じた相手がもし心変わりしてしまったら?!
そんな恐怖、アンタたちにわかるか!?俺は・・・この人だけには・・・もう捨てられたくなかったんだ・・・。」

カオルの犬は、流れる涙もそのままにこれまでの苦悩を打ち明けた。

「ゆ・・・じ・・・ゆう、じ・・・」
カオルが熱に浮かされ、名前を呼んだ。

「ユウジってお前の名前だろ?カオルが呼んでるぞ。早く返事してやれよ。」

テツヤはユウジを見上げ、抱えていたカオルを差し出した。

「カオル・・・!」

ユウジが階段を駆け降り、カオルの体を抱きかかえた。


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