「ただいま〜。」
「誰かいるんですか?」
「ううん、一人暮らしだけどね。」
「何だそりゃ・・・ってカオル先生、すごい汗じゃん!大丈夫?!」
今まで暗がりを歩いていたので気づかなかったが、カオルの額や前髪、首筋や襟足が汗で濡れている。
「ん〜・・・動物たち診てる時に熱っぽいなぁと思ってたんだけど・・・」
「ダメだよ無理しちゃあ!何ですぐ言わないの?!」
ユタカはポケットからハンカチを取り出し、カオルの汗を拭ってやった。
「あは・・・ごめん、後は自分でできるから・・・今日は何のお構いもできずごめんね。
次来た時はおいしいごはん作ってあげるから、一緒に食べようね。」
玄関にユタカとテツヤを残し、カオルは玄関正面にある階段を手摺りに頼りながら上がっていった。
「あんな状態のカオル先生、ひとりにできないよ・・・」
ユタカが玄関の上がり口に足をかけた時、なんとか階段の最上段まで昇りきったカオルの体がぐらりと後ろに傾いた。
「危ないっ!」
ユタカが言うと同時に、テツヤは人型に変身し、段の下へ駆け寄って受け止めようとした。
が、テツヤの腕に重みと衝撃はない。
テツヤとユタカは階段の上を見た。
階段の上には、テツヤと同じように人型に変身した犬がいた。
気を失ったカオルにその長い髪を巻き付け、カオルが落下するのを防いだのだった。
「・・・後は、頼む。」
段の上にいる人型の犬は、テツヤの腕にカオルをそっと下ろすと、巻き付けていた髪をほどいた。
「待てよ。さっき猿山でカオルを助けたのもお前だな。」
テツヤがカオルを抱えたまま呼び止める。
「あぁ。この人、危なっかしいからな。つい助けたくなってしまうんだ。・・・じゃあな。」
「おい、待てって言ってるだろ。お前・・・昔カオルが飼ってた犬だろ。」
「え・・・?!」
ユタカは階段の上とテツヤを交互に見た。
「さすが同類なだけあるな。よくわかってらっしゃる。」
カオルが飼ってたという犬が、わざとらしく軽い感じで言った。
「何でカオル先生置いて出て行っちゃったんだよ!カオル先生、ずっと君と会いたがってたのに!」
ユタカが階段の上を睨み付ける。
「・・・アンタたちには、わかりっこありませんよ。」
「何だとテメエ?!」
テツヤも怒りをあらわにしている。