「じゃあ、次はホッキョクグマ行きましょうか〜。」
カオルがいつものポワ〜ンとした雰囲気で、振り返りざま一歩踏み出した。
しかし踏み出したその片足は猿山の崖の外。
「うわっ?!」
「カオル先生っ?!」
誰もが落ちると思ったが、カオルは後ろに尻餅をつくような形で崖の上にとどまった。
「あは・・・あはっ、落ちるかと思った・・・へへへっ・・・」
カオルは頭をポリポリと掻いた。
「あははじゃないよ、カオル先生!気をつけてよ!」
目を白黒させて胸を手で押さえながら、ユタカはカオルに怒鳴った。
「カオル先生は腕はいいんですけど、すごくそそっかしいんですよね〜。」
飼育員もほっとした表情を浮かべた。
「次、ホッキョクグマだよ〜。行こ〜う。」
ユタカたちを置いて、カオルはペタペタと歩き始めた。
「いや、あの、聞いてます〜?!」
ユタカと飼育員は、カオルの後を追った。
テツヤは立ち止まり、カオルが落ちそうになった崖を見つめていた。
「ん?テツヤどうしたの?」
立ち尽くしたままのテツヤに気づいたユタカが声をかける。
「・・・何でもない。」
テツヤは後ろを振り返りながらユタカの後を追いかけた。
カオルは、飼育員とユタカ・テツヤを率いて、園内の動物を半分ほど診て回った。
「今回は特に異常は見当たりませんでした。残りはまた来週診ますね。」
カオルは飼育員に頭を下げる。
「ありがとうございました。来週もよろしくお願いします。」
飼育員もお辞儀をし、カオルたちを見送った。
「じゃ、帰ろっか〜。」
カオルとユタカとテツヤ、元来た道を並んで歩いて帰った。
空はすっかり暗くなって、星が瞬き始めている。
川の土手を散歩を兼ねて歩いていると、カオルが大きく伸びをした。
「あ〜、なんだか疲れちゃったねぇ〜。」
「そりゃそうでしょ〜、往復1時間も歩いて、検診中も園内歩いてるんだから〜。」
カオルのぼやきにユタカが呆れたように返事をした。
「あはは、たしかにね〜・・・うぁっ!」
足元にあった小さな段差に蹴躓いたカオルの白衣の裾を、テツヤが咄嗟に噛んで、転ぶのを食い止めた。
「あは・・・ごめんごめ〜ん。」
「カオル先生、ホントそそっかしいね・・・。」
「悪気はないんだけどなぁ〜。」
「悪気あったら困るよ、そんなの〜!」
そんなやりとりをしながら、カオルの病院へと帰ってきた。