「・・・誰・・・?」
ユタカのすぐ横にいた犬がいない。
前に立つ男をよく見ると、上半身裸で、下半身は犬の毛並み。
頭には獣のような耳がふたつ。髪は背中まで長く伸び、尻にはフサフサの尻尾が垂れ下がっている。
「い、犬・・・?」
ユタカは我が目を疑った。
「おい。5人でひとりやっつけんのにナイフまで持ち出しやがって・・・みっともねぇ野郎だなぁ。」
「ひぃ、っ・・・」
突然現れた変な怪物みたいな男に、不良たちがおののき後退りをした。
ユタカの前に立つ男は「へっ」と小さく笑ったかと思うと、不良グループに向かって走った。
人間離れしたスピードとパワーで、不良を次々と仕留めていく。
あっと言う間に不良5人組は男によってノックアウトされた。
「通行の邪魔になるから片付けとこうっと。」
男は、のびた不良少年を軽々と抱え上げて、道端に順に重ねて置いた。
「あ、そうだ。財布も返せよな。」
男が重なった5人の背の上に軽く片足を乗せると、3段目にいた不良の手からぽろりと財布が落ちた。
男は財布を拾い、ユカタの元へと返ってきた。
「ねぇ・・・君、今朝の犬、だよねぇ・・・?」
「何だよ。俺のことを『犬』、『犬』って・・・俺には『テツヤ』っていう立派な名前があるんだぞ?」
テツヤはユタカに財布を差し出した。
「テツヤ・・・ありがとう。」
ユタカは財布を受け取り、頭を下げた。