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大丸の紳士服売り場で兄さんと待ち合わせ。

フロアの片隅にあるベンチから立ち上がった兄さんが「お〜い!陽一、ここだよ〜!」と大声で俺を呼びながらブンブンと手を振る。
その通る声はフロア中に響き渡り、周りの人の視線が一斉に突き刺さる。痛い・・・。

兄さんと久々の再会だ。
兄さんの傍らには、有名ブランドの紙袋が数コ置いてある。

「・・・買い物しすぎじゃない?」

いいなぁ、金持ってて。
『家賃払って』って素直に言えたら、どれほどラクだろうか。

「いやぁ、田舎にはこういうオシャレなもん売ってないだろ〜?東京来たついでに買っとくんだよ。」

オシャレったって・・・「そんな蝶ネクタイ、ピーウィー・ハーマン以来だよ」「そんな帽子、スキャットマンジョン以来だよ」ってカンジのファッションの時があるんだけども・・・。

「さて、ウチ帰ろっか。」
「あっ、陽一も荷物持つの手伝ってね!」
「・・・・・・」

 

 

「ここ、なんだけどね・・・」
と、俺が指差したのは、今までの人生、踏み入れたこともないような高級マンション。

「え!ここに住んでるの?!すっごい高そうなマンションだなぁ!」
「あ、あぁ、まぁ、うん・・・」

ぎこちなさを感じさせないように細心の注意を払いながら兄さんを連れてマンションへと入っていく。

「何階?」
「25階。最上階・・・。」
「へぇ〜。」

エレベーターに乗ったら乗ったで、スムーズな乗り心地。
『ホントにエレベーター乗ってるの?』って言いたくなるぐらいモーター音も静か。
なのに上昇するスピードは早くって、途中で耳がキンとした。
あの人、毎日『耳キン体験』してるのか・・・金持ちってめんどくさい。

「ここ。」

部屋の前に到着し、取り出した鍵には、猫のキーホルダーがどっちゃりと装着されていた。
酒井からこの鍵を預かった時、キーホルダーが邪魔で はずそうとしたら、猛抗議を受けて結局 はずさせてもらえなかったのだ。

「え、何その鍵。猫だらけじゃん。」
「そうそう、結構毛だらけでしょ?」
「『灰』が抜けてる。」
「そんな細かいとこはスルーしてくれていいから。はい、どうぞ。」
「おジャマしま〜す!」

『ホントにおジャマだよ兄さん』なんて思いつつ、俺もココロの中で『おジャマします』と呟いてから靴を脱いだ。

「うわぁ、散らかってんな〜!」
「ん?そうかな・・・あ。」

・・・すごかった。
高級マンションなのに、とにかくすえ恐ろしいまでに散らかっていた。
なぜ確認しなかったんだろう俺・・・研究室の机の散らかりようから推測もできたはずだったのに。
ま、推測したからと言って、今の俺には他に選択の余地はなかったんだけどね・・・。

「ん?何これ?」

兄さんがまた何かに気づいたらしい。
おいおい、今度は何なんだよ・・・?

「猫の写真?・・・と、誰これ。」
「なっ・・・!」

今度ばかりはどうしたものか。
猫の写真と酒井の写真が、部屋中にすえ恐ろしいまでに飾られていた。
しかもどれも四切サイズぐらいに拡大されて、ご丁寧にフォトフレームに入れられ部屋中に張り巡らされている。

「あっ、あの、そ、それは・・・ほら、あれだよ、友達のね、荷物、預かってて・・・」
「あ、友達の写真なの?・・・あ、だから散らかってるんだ〜?」
「そう!そうなんだよ〜!そいつ整理整頓できないヤツでさ、早く引き取ってくれって頼んでるんだけど〜・・・。」

まったく!あの猫バカめ!あのナルシストめ!

「あっ、そ、その友達がね、今日泊まりに来るんだって。」
「あ、そうなの?そりゃおジャマだったねぇ〜。」

えぇ、ホントにね?!
だから『急に泊まると言われても困る』って言っただろ!・・・ま、その理由は別にあるんだけど・・・。


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