ピンポ〜ン。
インターホンが鳴り、音源の方を向く。
壁にかかったインターホンの小さな液晶画面に、酒井の顔が大写しになる。
「ほ、ほら、さっき言ってた友達、来たみたい。・・・は〜い!今出ま〜す!」
玄関に走っていき、ドアを開ける。
「おかえり。・・・兄さん、奥にいるから。」
兄さんに聞こえないように小さな声で酒井を出迎える。
「おぅ、そうか、いらっしゃったか。で、どうだこの部屋。なかなかいい部屋だろう。」
「あなたね、あの散らかりようは何なの?それにあの写真!全然聞いてないんだけど!」
「『聞いてない』って、聞かなかっただろう?」
「うぐっ・・・たしかに・・・」
「それに予知すればいいだけの話じゃないか。」
「ムリ・・・いや、無駄なチカラ使いたくないの!」
そんな会話を小声で続けていると、部屋の奥から「ケンカしてるの〜?」と小首を傾げつつ兄さん登場・・・
「あっ、お兄さまですか!お初にお目にかかります。ワタクシ、東京理工技術大学物理学部教授の酒井雄二と申します。」
酒井は、とても自然に友達のフリをしてくれた。
「教授?!へぇ〜、すごいな〜!陽一に教授やってる友達がいるなんてな〜。
しかもイマドキ珍しい好青年じゃないか〜。あ、どうぞ、上がって。ね!」
上がって、って兄さん・・・ここはあんたの家じゃないだろ!
しかもそいつ、ホントはここの家人なんだぞ?!
アタマの中でしきりにつっこんでいたから気づくのが遅れた。
兄さんの視線が1ヶ所を見つめたままだってこと。
俺は兄さんの視線を辿った。
「ぶっ・・・!」
酒井がごく当たり前って様子で冷蔵庫を開けて牛乳の1リットル紙パックを取り出し、コップに注ぐことなく直接そこに口をつけてグビグビ飲んでいた。
「何やってんの!もう!」
俺は、酒井の手から牛乳パックを引ったくって、紙パックを冷蔵庫に戻した。
「何って・・・俺は仕事から帰ったらすぐ牛乳を飲むって決めてんだ。」
「だから・・・!」
兄さんにバレないように目くばせで注意する。
何やってんの!設定忘れないでよ、もうっ!
「さってっと。じゃあ晩ごはん作ろうかな〜?3人前でいいかな?」
幸い、兄さんは酒井の奇行も特に気にならなかったらしい。
メシの心配を始めた。
『(金持ってるから)酒井におごってもらおうよ』って言おうとした、その横から。
「マジですか!うわぁ、楽しみです!」
酒井が割って入った・・・。
「ねぇ、酒井くんは、カレー好き?」
「カレーっすか?そりゃあもう、めっちゃ好きっすよぉぅ!」
「マジで?!じゃあ頑張って作っちゃうぞ〜♪」
しかもいつの間にか意気投合してるし・・・。
「陽一、この辺に店ある?」
「あ、お兄さん!俺がスーパーまで案内します!」
「あ、でも悪いから陽一に教え・・・」
「行きましょう行きましょう!」
「ってことみたいだから、陽一〜、じゃあ行ってくるね〜。」
兄さんは、俄然テンションが上がった酒井に背中を押されながら、俺に手を振って部屋から出て行ってしまった。
「はぁ・・・あのふたり、疲れる・・・」