「では、透視を始めます。その封筒を渡してください。」
俺は事務机の真ん前まで歩み寄り、封筒を受け取った。
「封を開けることなく、読み取ってみますね。」
「ふん・・・やれるものなら、やってみたまえ・・・」
封筒を手にした腕をぶんぶんと大きく勢いよく何度か振り下ろし、左手のひらに封筒を乗せる。
そして右手のひらを封筒に触れるか触れないかところでかざすようにした。
「・・・どうだね。どうせわからんのだろう。ムダな時間つぶしはやめたまえ。」
「・・・はい、見えました。」
「そうかお手上げ・・・何?!み、見えた、だと?!」
「ええ。」
「・・・言っていいんですか。」
「お、おぅ。か、構わん・・・」
俺はスッと息を吸い、大きな声で透視の結果を発表した。
「・・・『今度のお見合いパーティ、いい人と巡り」
「も、もういい!!」
おんなじぐらいの大声で遮られ、途中でコトバを飲んだ。
「・・・で、だ。・・・俺に『いい人』は現れるのかね?」
あっさり信じちゃったよ!
え?え?こんなにちょろいもんなの?!
だってこの人、超常現象の存在を真っ向から否定している第一人者でしょ?!ホントに?!
「・・・あの。」
「何だ?」
「その予知はまた別料金なんですけど。」
「何をぅ?!・・・この詐欺師がっ!!」
いやいやいやいや!何?今度は逆ギレ?!捨てゼリフ?!
教授職に就く身なんだったらさ、もっと論理的に・・・
「仕方がない・・・いくらだ?いくら出せば教えてくれるんだ?ん?」
払うのかよ!
でもな〜、さすがにこの人にウソの予言するワケにはいかないし。
・・・いや、透視ってのもウソだったけどね?
さっさと金もらって帰ろう・・・この人、さっきからめんどくさいし。
「あの〜、その前に・・・雑誌に載ってた100万、ください。」
「・・・ちょっと考えさせてくれ・・・。」
「え?!そ、そっちこそ詐欺じゃないですか!」
金を出し渋る酒井の発言に、俺は思わず声を上げてしまった。
それに対し、酒井は慌てて頭(かぶり)を振る。
「いやいや。金は持ってる。あり余ってる。自分で言うのも何だが、俺は金に糸目をつけないタイプの人間だ。」
「・・・何の自慢ですか、それは・・・。」
「とにかくっ・・・出し惜しみしているワケではないんだよ。
俺は研究者だ。超常現象を見せられたからといって何も考えず即金で支払うのはおかしいだろ。
トリックを解くための時間を俺にくれないか?・・・3日後・・・、いや、1日でいい!
頼む!明日のこの時間にもう一度ココに来てくれ!その時までに謎が解けなかったら・・・な?」
「・・・わかりましたよ。俺は、もらえるもんもらえたら、それでいいんで。」
なんだかヤのつく自由業の人みたいなセリフ言っちゃったよ・・・。
結局のところ、俺だってだまくらかして金をもらおうとしてるんだから、猶予ぐらいあげないとかわいそうだよな。
「じゃあ明日出直します。」
「お、おぉ、ホントすまんな・・・」
「最後に。」
「は?何だ?」
「明日・・・あなたにいい知らせが来ますよ。」
「は?『いい知らせ』?」
「では、失礼しました。」
意味深な予言めいたコトバを残し、俺は酒井の元を去った。