「ここ、か・・・?」
大学の門のところにある守衛室で教授の研究室を教えてもらってきてみたら・・・
研究室の前に長蛇の列。
しかも、誰も彼もがウサンくさい。
奇妙なお経唱えてるヤツとか、座禅組んで瞑想してるヤツ、ヘンな祈りのダンスを舞いながら待ってるヤツ・・・。
全員珍妙なカッコしている。俺以外、みんな変人だ。
ここにいると、自分もコイツらと同類項に思われそうでヤダ・・・
でもな、来たからには並ばないと。100万円のためだ。
俺は列の一番最後で、順番が回ってくるのを待った。
訪問客は、順に研究室の中へと消えていき、数分後には泣き言やら捨てゼリフを残して去っていく。
差し詰め、大学教授にネタを見破られたのだろう。
日が傾き始めた頃、ようやく俺の順番が巡ってきた。
研究室のドアをノックし、中に入ると、雑誌で見た男が部屋の奥に置かれた事務机に着席していた。
「おや。最後の挑戦者は随分と普通のカッコしてるんだな。」
特に返す言葉はなく、俺は黙ってそれを受け流す。
「東京理工技術大学物理学部教授の酒井雄二だ。挨拶はそのくらいにして、早速お手並み拝見といこうじゃないか。
俺もヒマじゃない。つまらないインチキ人間の相手ばかりしてる場合じゃないんだ。Youは何をやってくれるんだ?ん?」
酒井とかいう何とも横柄な大学教授を、俺は軽く睨み付けた。
「・・・じゃあ、透視を。」
「透視、ねぇ。さっきから何人かやってるが、結果はサッパリだったぞ?」
「じゃ、『本物の透視』を見ていただきましょうか。」
俺がそう うそぶくと、酒井は「ほぅ。本物、だと・・・?」と言って身を乗り出した。
「なんでもいいです、新しい封筒と、新しい紙を。」
「・・・わかった。え〜っと、封筒、封筒・・・紙、紙っと・・・」
酒井は散らかりに散らかった机の上を漁っている。
もうどこに何があるやら・・・
「ん〜・・・紙と封筒は新しいヤツじゃないと、ダメか?」
「できれば。すでに使ったものはその時の情報も少なからず残ってるので、混ざって読み取ってしまう可能性が。」
もっともらしいことを言って、『透視』に『都合のいいもの』を『用意』してもらわねばならない。
「・・・わかった。」
「あっ、これでいいですよ。」
机からぽろりと落ちた封筒をを拾い上げて酒井に手渡した。
「念のため封筒をよく調べておいてくださいね。」
「お、おぅ・・・」
酒井は封筒を入念に調べた後、続いてメモ探しを再開する。
「おっ、メモもあったぞ。ほい。」
「ありがとうございます。」
俺は、手にしたメモを剥がし、机に乱雑に積まれた書類の上に載せた。
「ここに・・・そうですねぇ、では今の悩みごとを書いてもらいましょう。」
「悩みごと、だと・・・?」
「えぇ、人には言えない悩みごとってヤツです。透視なんてできるワケないとお思いなら、正直に書けるでしょ?」
「うぬぬ・・・わかった・・・」
酒井は真剣な面持ちで、早弁する学生のようにひた隠しにしながら、散らかった机の上でメモに書き込んでいる。
「か、書けたぞ・・・?」
「そのメモを、その封筒の中へ。中身が出ないようにしっかり封をしてくださいね。」
メモを封筒に大切にしまった酒井は、赤い帽子がフタになった黄色い犬の顔型の懐かしい接着ノリで封をした。