明日から仕事ゼロだ・・・どうしよう・・・
非常に、非っ常〜っに困ったな。
うむむむむ、と悩みながら、“健康のため”歩いてアパー・・・いや、高級マンション内にある自宅へ帰ってきた。
「あっ!北山さんっ!!アンタねぇっ、いい加減家賃早く払っておくれよ!もう3ヶ月分も滞納してるんだからね!
あと3日待って払ってくれなかったら、即、出てってもらうからね!」
恐い大家さ・・・いや、管理人さんがいつもこうやって守ってくれてるから、セキュリティもばっちりの住まい、でしょ?
俺は“健康のため”足早に2階の自室へ向かった。
ちょっとクラシックな造りだから、階段を上がるとギシギシと軋む音がする。
これまた味わいのひとつ。
今どきエレベーターが設置されてないのは、たぶんエコの精神なんじゃないかな。
鍵を出そうとポケットを探る。
中からマジックのタネがポロポロと落ちるけど気にしない。あとで拾うし。
「あっ、た・・・と。」
耳から鍵を出すようなアクションなんかしたりして。
どう?うまいでしょ?・・・なんちゃって。
「♪キタヤマ〜、ビンボ〜・・・ヘタナ〜、テジナデ〜、リストラサレタ〜」
この高級マンションの唯一の欠点は、防音機能がないことだ。
隣に住んでる外国人の鼻歌が筒抜け・・・っていうか、オイ、お前!何で俺がクビになったこと知ってるんだ!!
「♪ハトノ〜、クビトレ〜、キタヤマモクビ〜・・・」
「うっさい!!」
あ〜、イライラする。
お金もない。
どうしよう。
持ってた荷物を畳敷きの床の上のに放り投げ、部屋の真ん中で大の字に寝っ転がった。
「・・・あ、そういえば・・・」
さっきもらった雑誌の記事を思い出し、むくりと起き上がる。
カバンを漁り、タネも仕掛けもあるハンカチやら、ピエール三世を潜ませていた専用ケースやらを手で退けながら、底に押し込められていた雑誌を取り出し、ページを捲った。
「どこだっけな・・・あ、あった。・・・なになに?『超常現象を私に信じさせたら、100万円』・・・?」
超常現象、ねぇ・・・。
俺の親父もマジシャンだったんだ。
「この世に超常現象は存在しない。超常現象と呼ばれるものには、すべてタネと仕掛けがある。」っていうのが親父の口癖だった。
だから俺も昔からそういうのは信じていない。
超常現象は作れるものだと思っている。
「超常現象が存在しないっていう考えは俺と同意見だけど・・・」
この記事を書いた大学教授の男、どうも気にくわない。
だってマジックのことも「インチキ」だの「まやかし」だの「子供だまし」だの好き勝手書いてて・・・ムカつく。
タネも仕掛けもあったとしても、マジックには後ろ暗い部分は何ひとつない。
マジックは歴とした立派な芸であり、立派な技だ。
決して観客をだますつもりなんてこれっぽっちもない。
なのに、それをバカにされて全否定されて・・・正直気分が悪い。
もちろん金が目当てってワケじゃないけど・・・いや、そうとも言いきれないけど、内心「あわよくば」と思っているけど・・・
この大学教授を一発ギャフンと言わせないと気が済まない。
「よしっ、行ってみるか。」
俺は雑誌を握り締め、その教授がいる大学へと向かった。