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あの騒動から早3ヶ月が経った。

「ちょっとアンタ!」

仕事に向かおうと部屋を出た途端、大家のオバサンに捕まってしまった。

「ひぃっ!は、はい!な、何ですか・・・?」
「『何ですか』じゃないわよ!家賃まだなの?!もういい加減払ってちょうだいよぉ〜!」
「あっ、はい、もうすぐ・・・」
「アンタ、昨日も『もうすぐ』って言ったわよ?!」
「・・・あっ、タケちゃんマンだ!」
「えっ、どこどこ?!」

あらぬ方向を指差し、オバサンの視線を逸らせた隙に、脱兎のごとく逃げ出した。
急いでいるワケじゃない。
お察しのとおり、金がないからだ。

「きぃ〜っ、くやしい!毎日『鳥だ!』とか『飛行機だ!』とか言ってワタシをだまして!
今度逃げたら強制退去よ、強制退去!!」

結局、酒井は報酬はビタ一文払ってくれていない。
こっちがだましていたワケだし、まぁ仕方ないといえば仕方ない。
でもあれだけ危ない目に遭ったのだから、少しぐらいくれてもいいんじゃないかな。
できれば兄さんの分も代わりに受け取りたいところだ。

 

俺は今日は郊外にあるラドン温泉での営業がある。
ギャラが安く交通費が高いのが痛いが、交通費はあとからギャラと一緒にもらえるから、まぁよしとしよう。

最寄り駅から電車に乗り、ターミナル駅で乗り換える。
ここからは少し長旅になるから、週刊誌でも買っておこうか。

改札内の土産物屋が並ぶ界隈に本屋を見つけ、足を向ける。
そこで女性ファッション誌を立ち読みする、あやしげな男が・・・ん?サングラス?

「あ・・・刑事さん。」
「あぁ、何やワレ?・・・なんだ、お前か。」

俺の呼びかけに村上はドスの効いた関西弁で返事したが、声の主が俺だとわかると態度をやわらげた。

「久しぶりだな。あれから手品の方はどうだ?」
「んまぁ・・・ボチボチです。」
「そうか。」
「で、あの霊能者どうなりました?」
「あぁ、アイツか。最初は『警察内部にも関係者がいる』と強気だったが、化けの皮がハゲた教祖にゃ誰も助け舟は出さなかった。
『上』が捕まったことで、『コマ』になってたヤツらも解放されて清々(せいせい)してるんじゃねぇかな。
教団も解散したみたいだし、残党が残ってまた同じような騒動になることもなさそうだし、一件落着ってとこかな。」
「そっか、ならよかった。」

その後、安岡の友人は警察に連行されたものの、罪に問われずに済んだらしい。

調べに対し、行方不明の期間はあの教団の施設内に軟禁状態にあったそうだ。
逃げ出すと本人だけでなく身内にも不幸が、とも脅されていたらしいから、逃げることもままならなかったんだ、と。

彼はさまざまな機械を作る『技術部隊』に所属し、大学での専攻で身につけた知識と技術をそこで発揮するよう強いられていた。
霊能者が信者獲得のために使う『不思議なチカラ』の多くは、彼ら技術部隊の製作した機械が作り出す『まやかし』だった。
教団内には、他にもパソコン部隊や実働部隊など、細かく分業化されていたらしい。

金のためなら手段を選ばない。
人の命すら惜しいとも思わない。
・・・ホント憎たらしいヤツらだ。

「・・・あ、そうだ、お前、アレ知ってるか?」
「ん?何ですか?」
「アレだよ、アレ。平積みのベストセラーのとこ、見てみ?」

言われたとおり、立ち読みする客の合間をかき分けるように本屋の平積みのゾーンを覗き込んだ。

「・・・・・・・・・はぁ〜?!」

ハードカバーの表紙に力強く書かれた『超常現象なんてないやいや』というタイトル。
その下に映っているのは・・・酒井?!

手に取ってその本をパラパラと捲り、斜め読みする。

「刑事さん!こ、これ・・・!俺がこの前の事件で解いた謎が・・・まるで自分の手柄のように書いてありますよ?!
どっ、どうなってるんですか・・・!」
「刑事の俺に言われてもな〜・・・そういうのは民事事件だし、その謎を解いたのがお前って証拠は何ひとつないからなぁ〜。」
「アンタ、証人でしょう?!一緒に出廷してくださいよ!」
「そんなヒマねぇよ!それに、お前だってアイツから200万巻き上げようとしてたんだろ?」
「えっ・・・あ、えっと、それは・・・」
「それで、『行って来いでチャラ』ってことでいいんじゃねぇの?
あいつもお前も同じ『超常現象否定派』だろ?うまく協力し合って、弱い者の敵をやっつけていけよ。・・・あ、そろそろ列車出発の時間だ。またな!」
「あっ、ちょ、ちょっと・・・!あ〜あ、行っちゃった・・・」

ロングコートを翻して去っていく後ろ姿を、俺は呆然と見送った。

「『この世に超常現象は存在しない。超常現象と呼ばれるものには、すべてタネと仕掛けがある。』・・・か。」

誰にも聞こえないぐらいの小さな声で親父の口癖を復唱する。

その直後、またアタマの奥で電流が流れるような感覚に襲われた。
それが一体何なのかと一瞬気にはなったが、深く追究せずにラドン温泉へと向かう列車へと乗り込んだ。

 

 

END

 

 


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