なおも村上は、俺が手にしているボタンを奪おうとしてくる。
俺はその手を必死に払いのけて阻止する。
「早くそのボタン寄越せよ!」
「ダメだってば!」
ダクトからの風は止む様子は全くない。
・・・一体、どうすればいいんだ?!!
「どいて!」
「あっ、この、待てよっ・・・!」
俺はラガーマンのように胸にボタンを抱え、村上から走って逃げる。
こんなパニックの状況下、兄さんはひとり、下に座り込んで床に指で字を書いている。
神経を集中して・・・まるで書道の時のように。
書いている字は・・・漢字。
「闔」
「開」
―――とびら、ひらく。
アタマの奥で、チリッと小さい電流が流れたような感覚が起きる。
「うわぁっ・・・!!」
俺が叫びながら闇雲に起こした行動と、兄さんが「赤も青も罠だ!陽一、蓋の中だ!!」と叫んだのは、ほぼ同時だった―――
兄さんのコトバにシンクロするように、無意識のうちに手の中にあるスイッチの箱の上部を手で剥ぎ取り、中にある白い小さなボタンを押していたのだ。
ガタンと音がしてダクトからの風が止まる。
ここまで一度も開くことがなかった頑丈なドアの鍵がカチャンと音を立てた。
「え・・・?」
俺たちは一斉にドアに向かって一直線に走った。
一番最初にドアにたどり着いた村上がノブを回すと、外から森林独特の匂いを含んだ冷たい風が一気に吹き込んだ。
「開いてる!!」
「おぅらぁっ!!」
ドアが反対側から大きく開かれ、門番の男とお付きの男がこっちに向かって飛びかかってきた。
「かかってこい、このクソ野郎がっ!」
村上が門番の男をパンチをかわすと、ヒザでハラを蹴り上げ、よろけたところを腕をひねり上げる。
「あちょ〜ぉっ!ほぁたっ!ほぁたっ!・・・ほぁたぁ〜っ!!」
なんと、酒井もケンシロウばりの雄叫びを上げながらお付きの男にパンチを繰り出し、ついにはノックアウトしてしまった。
「なんだ、お前も強いじゃねぇかよ。」
「ええ、空手を通信教育で少しカジってましてね。」
村上からの褒めコトバに酒井が自慢げに胸を張り、その隣にいた兄さんが「通信教育ぅ?!」と素っ頓狂な声を上げている。