『さぁ、みなさん。わたくしがアナタがたを助けに来ましたよ?』
ご丁寧にも、窓の外で話した声が部屋の天井にあるスピーカーから声が聞こえるような仕様になっている。
「お前ら・・・!」
『今なら間に合います。さぁ、私のチカラを信じなさい。
そうすればアナタがたも私と同じように自分の未知なるチカラが引き出せる。幸せな人生を送ることができますよ。』
何言ってんだコイツら・・・!
「ふざけんなよ!何がチカラだよ!このインチキ霊能者が!」
『インチキ?わたくしのチカラのどこがインチキだと言うんです?名誉棄損で訴えますよ?』
「訴えられるのはお前たちの方だ!・・・お前ら、昨日酒井のカバンの中に盗聴器をしかけただろ?!」
「と、盗聴器、だと・・・?!」
俺の横にいた酒井が、目を丸くして驚きの声を上げる。
「偶然を装って酒井とぶつかったオンナが、カバンの中のモノを拾うフリをして盗聴器をしかけたんだ。・・・そうだろ?」
「え、あ、あのキレイなお嬢さんがか・・・?!」
「お前らが言い当てた俺らの胸のうちは、全部俺らがこの2日間で言ったコトバを盗聴して、そこから推測しただけ。
兄さんは『悩みがない』んじゃなくて、それは!兄さんがそういう話をしなかったからだ。
昨日先に寝て、クルマの中でもずっと寝っぱなしだった兄さんの素性までは推し量れなかっただけだ。・・・違うか?!」
『ふふっ、何を根拠に・・・』
「そもそも、お前らが今ここへ来たタイミングもおかしいんだ。
刑事さんとバッジの話をしてる時に酒井がテレビを点けて、『哲子の部屋』で山村紅葉が盗聴器の話をした・・・。
そのタイミングで来たのは・・・ここでの様子も盗み聞きしていたからだ!」
「え、いや、でも盗聴器がしかけられている酒井先生のカバンは、クルマの中に置いたままですよ?それなのになぜ・・・」
安岡が不思議そうに首をひねる。
「こんな脱出できないプレハブ小屋を作るぐらいだ。この部屋にも盗聴器はついてる。
恐らく、そのテレビのコンセントとプラグの間にあるその三又プラグが盗聴器なんじゃないの?」
俺のコトバに安岡がテレビへと向かい、コンセントを抜いて白い三又プラグを手に取った。
「これが盗聴器?!見た目には普通のプラグなのに・・・」
手のひらに載せたプラグをまじまじと見つめる安岡に、テレビにクギヅケになってた兄さんが「あぁっ、俺、哲子見てたのに〜!」とくやしそうに叫ぶ。
やっぱり兄さんはやっぱりここに連れてくるべきじゃなかったな・・・。
「・・・この手のタイプの盗聴器は電気街に行けばカンタンに手に入る。コンセントに差してあるから電池切れの心配もない。
それに・・・ここの小屋の中には、もうひとつ盗聴器がある。」
「あ?もうひとつ、だと?」
村上が俺に尋ねる。
「刑事さんが持ってる・・・証拠品のバッジだ。」
「なんだと?!・・・このバッジがかよ?!」
「そう、コイツらは、この信者のバッジにも盗聴器をつけて監視していたんだ。
だから内部で異論を唱えたり、命令を従わなかったり、不穏な動きを見せたりする信者がいれば、制裁を加えたり・・・時には命を奪ったりもしてたんだろ。
信者たちは恐れたんだ・・・逆らえば気づかれる。その、『不思議なチカラ』というヤツにな!だからお前らの命令に従う他なかったってことだ!
・・・それに、そこのお前!」
俺は門番の男を指差した。
「昨日、門のところで会った時、お前はバッジをつけてなかった。それなのに今は青いバッジをつけている。
死体の近くに落ちていた赤いバッジ・・・あれは元々お前のなんじゃないのか?
思いどおりにならない信者を命令どおりに殺し、その時に赤いバッジを落とした。
その『手柄』を上げたことで、赤から青へとランクを上げたんだ。」
「赤から、青へ・・・?」
「そうだよ、色でランク分けがされてる。一番下のランクが黒。
入信した当初は、炊事や掃除などのカンタンな作業を与えられているのが、そのうちだんだん悪に手を染めるような命令に変わっていく。
それを遂行するたびにランクが上がる。黒から白、黄色、赤、青、そして、紫・・・。」
紫で指を差したのは、ゲイツビルで出会ったお付きの男。
その胸に輝く石は、・・・紫。
「・・・冠位十二階、か・・・?」
酒井が呟いたコトバに、俺は大きく縦に頷いた。
「自分を当時の天皇になぞらえて、そんな構図を作ってみたんだろ?
お前みたいなインチキ野郎が1400年ほど前の天皇をマネするなんて、8億7513万年早いんだよ!
お前らがやったことは、全部すべて、まるっとスリっとゴリっとエブリシングお見通しだ!」
分厚いガラスの向こうをバシッと指差し、キメゼリフ。
くぅ〜っ、キマった!俺、カッコいい!