「くっ、頼む、切れろ・・・!」
手首を返して、根気よく何度も刃を紐に擦りつけると、ピリッ、ピリッと紐の繊維が切れる音がして、動かす手にもわずかながら余裕が出てきた。
どうやら、もう少しのようだ。
頼む、あとちょっとだ!切れてくれ・・・!
カッターを持つ手にグッとチカラを込めると、フッと一気に解放されるような感覚があり、巻きついていた紐がパサッと下へ落ちた。
自由になった手で足首の紐も断つ。
「よし、切れたっ!」
うれしさのあまり叫んだ声が小屋の中に響いて、4人がこっちを見た。
「・・・どっ、どどどどどうやってほどいたんだそれ?!」
「これ!」
とカッターをみんなの目の前に差し出す。
「おっま・・・いつの間に?!」
「いや、持ってたんだよ、ずっと。」
「は、早くそれを言わんかっ!」
「いや、切れるかどうか確信なかったし、みんなに余計な期待をさせるのもアレかな〜と思って、まずは自分で試しただけだよ。」
「陽一、抜け駆けする気だったでしょ!」
「んなワケないでしょ!ほら、切ってあげるから、みんな後ろ向く!」
俺が一喝したら、みんなブツブツ言いながらこちら側に背を向けた。
それを端から順に紐をカットしていく。
「っあ〜、解放感・・・」
「よかった〜・・・」
「一時はどうなることかと・・・」
「紐が擦れて地味に痛かったぁ〜・・・」
手首をさすって、みなでフゥとため息。
「よし、じゃあ逃げるぞ!ついてこい!」
村上がこの小屋に唯一存在するドアに向かって走り、他の3人も追うように駆け出す。
が。
「開かねぇし・・・!」
でしょうね・・・。
そんな気がしたよ。
あいつらは簡単に逃がしてくれるような連中じゃない。
「そんなバカな・・・」
酒井が村上を横に押し退け、ドアノブをひねって押したり引っ張ったりしているが、ビクともしない。
今度は部屋の壁に立てかけてあった椅子を掴み上げ、雄叫びを上げながら窓ガラスをぶち破ろうとしたが、ガラスはヒビひとつ入らない。
「な、何だよコレはよぉっ!!」
何度やっても結果は同じ。
強化ガラスか・・・ホント、手の込んだことをしてくれるよ・・・。
「マジどうすんだよコレっ!!」
椅子を握ったままイライラした様子で喚く村上の手を掴んで、下げさせた。
「・・・残念だけど、カンタンに脱出はできないと思うよ。
あんまりバタバタしてムダな体力使うんじゃなくて、少し時間をかけてみんなで脱出方法を考えた方がいいんじゃないかな。」
「はぁ?!何言ってんだよ?!考えてる隙に殺(や)られたらどうすんだよ?!」
「それは、・・・その時はその時ってことで、」
「ふざっけんな!俺はやめねぇからな!・・・おら、どけっ。」
ドアの前で呆然と立ち尽くしていた酒井を退かせて、今度はドアに向かって椅子を何度も打ちつける。
しかし、ドアノブすら壊れない。
これもどうやら特殊な仕様になっているらしい。
「くそっ・・・!」
体力を相当消耗したらしい、息も絶え絶えな村上は、椅子を放り投げて崩れるようにその場に座り込んだ。
「はぁっ・・・証拠品、何としてでも署に持って帰るつもりだったのによぉ!」
「証拠品・・・?」
「ああ、そうだよ!さっきここの施設の周辺探ってる時に、死後1日か2日ぐらいの死体を見つけてよぉ・・・
その近くに・・・これが落ちてた。」
ポケットを探った村上がハンカチを取り出し、畳まれたそれをゆっくりと開いていく。