「・・・あれはね、・・・マジックだよ。」
「ま、マジック?!!手品だったってことか?!」
酒井が口をあんぐりと開けて驚いている。
ホントにいいお客さんだ。
世の中が酒井みたいな人ばかりだったら、俺も今頃有名マジシャンになれていたんだろうけど。
ってそんなことを思っている場合じゃないか。
「ごめん、悪かったよ・・・俺、ただのマジシャンだから、超能力もないし、透視も予知も全部ウソなんだ・・・」
アタマを下げようとしたが、手足の自由が効かないからうまくできなかった。
「じゃあ、あの透視はどうやって・・・」
「あの日、ネタ見せ前に少しキャンパス内を探索したんだ。その時、偶然各教授用の郵便受けを見つけて、その中をこっそり覗いたら・・・
覚えてます?『あて所に尋ねあたりません』で、出した郵便物が戻ってきてたでしょ?その封筒は大学オリジナルのモノだった。
『この人は郵便物を送る時、大学の封筒を使うんだ』ということがわかったから、購買部に行って同じ封筒を3枚買ったんだ。」
「・・・ほう・・・それで?」
「1枚は、タネも仕掛けもないと証明するために渡した封筒。何も細工せず、そのままのモノだよ。
2枚目に用意したのは、封筒の底に切れ目を入れたモノ。
これは、底の糊づけしてあるキワキワの部分に切れ目を入れているから、上の封を開いてメモを入れたとしても切れ目は見えない。
これは、メモに書いてもらってる隙に、1枚目の穴が開いていないモノとすり替えた。」
「・・・まったく気づかんかったな・・・」
「最後に、メモが入った穴開き封筒を受け取った後、手を上下に大きく振ったよね?
振った手が机に隠れるまで下げた時に、穴を開けずに別のメモを入れて封だけしておいた3枚目の封筒と交換をして、もう片方の手で2枚目の封筒からメモを取り出す作業をしたんだ。
畳んだ白いメモは、わざわざ広げなくても字が透けて見えてるから、取り出して向きを変えるだけで
だいたい読める。
机にできるだけ近づいたのは、死角を作るためだよ。
2つめの封筒から3つめの封筒に交換するのも、2枚目の封筒からメモを取り出してチラ見することも、机の向こう側にいる人からは見えないってワケ。」
俺の説明に、酒井は「うむむ〜・・・」と、わかったのかわかってないのかよくわからない唸り声を上げた。
「当日、この他にもいくつかタネは用意してたんだ。大勢の前でやるのに向いてるマジックとか、ひとりの前でやるのに向いてるマジックとか、いろいろあるからね。
研究室の机の上がすっごく散らかってたのを見て、『あ、この人は几帳面な人じゃないな』と思って、封筒のマジックをチョイスしたんだよ。
几帳面な人が相手だと封筒は所定の位置に収納しておくし、残量だって把握しているはずだし・・・
それに、机からひょっこり封筒が現れたらおかしいって気づくだろうから、几帳面な人にはゼッタイにできない。
同じくメモもこちらで用意したモノだよ。
封筒の確認をしてもらっている時にこっそり置いたんだけど、それにもまったく気づかないんだもん。逆にビックリだよ。」
酒井は苦虫を噛みつぶしたような顔で「なんかサラッとヒドいこといっぱい言われてるな。」と呟いた。
あ〜・・・落ち込んでる・・・。
「・・・あ、あの、北山さん。ひとつ聞いてもいいですか?」
横で話を聞いていた安岡が割って入る。
「ん、何?」
「先生から聞いたんですけど・・・翌日届く郵便物の内容を前日に言い当てたのは、なんでですか・・・?」
「あれはマジックでも何でもないんだよ。
さっき言った、郵便物をチェックした時に届いてたモノを一晩預かっておいて、今日早めに大学に来て郵便受けに戻しただけなんだ。」
「でもそれだと消印が古くなったりしてバレちゃうんじゃないですか?」
「安岡くん、『料金後納郵便』って知ってる?」
「たまにありますね、特に企業から届く郵便物に多いような気がします。」
「うん、それのこと。後納は差出人が郵便物を大量に送る場合なんかによく使われるんだ。
届いた後納郵便をよ〜く思い出してみて。あれね、消印押してないんだよ。」
「あ・・・言われてみれば、たしかに・・・」
「だいたいね、超常現象なんてウソなんだよ。超常現象と呼ばれるものには、すべてタネと仕掛けがあるんだよ。わかった?」
親父のお約束のコトバを使って、俺は説明を締めくくった。