「さて、みなさん。お席に着いてください。」
案内されるがままに席に着く。
給仕係が昼食をひとり分ずつ載せたトレーを運んできて、参加者の前に並べていく。
「では、食事ができることに感謝をしながら、いただきましょう。・・・いただきます。」
参加者が各々「いただきます」と呟き、箸に手を伸ばす。
うまそうだけど・・・なんかアヤしげなクスリとか仕込まれてたりしないだろうな・・・?
「あ、これおいし〜!」
兄さん、早くももう食べ始めちゃってるし!
「ほら、安岡くんも早く食べなよ〜!ねぇ、酒井くん?」
「そうだ、食いたい時に食っとけよ〜、安岡。」
お前もか・・・!!
「どうしたんですか?食欲ありませんか?」
霊能者が、食べるのをためらっている俺と安岡に声をかけてくる。
俺たちが疑いをかけていることがコイツにバレて、これ以上怪しまれたら元も子もない。
仕方なく用意された食事に口をつけ、安岡にも食べるように目で合図した。
料理は、冷めているワケでもないし、味が薄いワケでもなかった。
何の変哲もない味だ。普通に、うまい。
テーブルのあちこちで、参加者同士、会話が生まれつつある。
もっぱら、さっきのテレパシー(らしきもの)の話が中心のようだ。
一斉に食事を摂らせることや信者に給仕をさせることによって、緊張感や危機感や恐怖心を払拭させ、参加者同士さらなる連帯感を生もうとしているのか。
俺たちも場に溶け込むべく、他愛のない話をしながら食事を口に運んだ。
「お茶のおかわり、いかがですか?」
給仕係が、俺たちに声をかけてきた。
「あ、俺ほしい〜。」
「じゃあ、俺も頼む。」
食が思うように進まない俺と安岡に反して、兄さんと酒井はすっかりリラックスムード。
兄さんは事情を知らないからいいけど、酒井、お前はここに何しに来たんだ・・・!
イライラしながらふたりに視線を向けていた時、給仕係の白衣の胸ポケットの辺りに、小さくて黒いバッジがついているのを見つけた。
他の給仕係にも目を向けてみると、同じバッジが胸に光っている。
「あの・・・」
「はい。」
ふたり分のお茶を注ぎ終えた給仕係が、俺の呼びかけに変わらぬ笑顔をこちらへと向けた。
「そのバッチは・・・?」
「あ、これですか?このバッジは、『仲間』になったしるしに、先生からいただいたんですよ。」
給仕係は「いいでしょう」と言わんばかりに、誇らしげな笑顔でそれを指でつまみ上げる。
「なるほど・・・。」
「みなさんも仲間になったらこのバッジもらえますよ〜。」
いやいや、いらないし。
そもそも『仲間』とやらにもなりたくはない。
「はぁ、まぁ、頑張ります・・・」