「・・・さて、わたくしが悩みを当てただけでは何の解決にもなっておりません。
みなさんの『悩みに打ち勝とう!』というキモチや意気込みなどが重要となってきます。
わたくしは、みなさんが強くなるサポートを少しさせていただくだけ・・・未知なるチカラは、わたくしの中だけではなく、みなさんの中にもすでにあるのです。
その眠ったままのチカラを、わたくしのチカラが引き出していくのです。」
なんだかもっともらしいというか、ありがちというか。
「と、その前に。みなさんそろそろおなかが空いた頃じゃないですか?」
霊能者の背後にあるホワイトボートの上にある壁かけ時計の短針が、まもなく2時を指そうとしている。
俺たちだけでなく、他の参加者も昼食はまだのようだ。
「わたくしたちの『仲間』が昼食の準備をしております。」
悩みを言い当てたところで今からメシ、だと?
ちょっとおかしなタイミングだ。
そのままの流れでセミナーを続ければいいのに。
いや、セミナーを始める前に、先に食事提供すればよかったのに。ヘンなの。
「さぁ、食堂へ向かいましょう。みなさん、ついてきてください。」
初めて会った同士で、仲もよさそうに見えなかった参加者たちが、ひとことふたこと会話をしながら立ち上がる。
どうやら、霊能者の不思議なチカラを一緒に体験した、その連帯感みたいなものが生まれてきているらしい。
「・・・北山さん、さっきの、どう思われました?」
立ち上がろうとする俺に、安岡が小声で尋ねてきた。
「どう、って言われても・・・」
「ですよね・・・。でも、何でわかるんだろう・・・?」
「う〜ん・・・いろいろ考えてはいるんだけど、俺にも答えはまだ・・・」
「そう、ですか・・・」
俺の頼りない返答に、安岡の表情がさらに曇る。
「・・・まぁ、まだ時間はあるから、バレないようにゆっくり探るしかないね。」
「はい・・・」
こんな深刻な話をしている横で、兄さんが酒井に「お昼、何出るんだろうね〜?」と笑顔でノンキに話しかけていた。
うん、やっぱり悩みとかなさそうだ。
ゾロゾロと列をなして部屋を後にする。
渡り廊下を通って隣にある建物へと入っていくと、何やらおいしそうな匂いが漂ってきた。
「はい、こちらが食堂です。」
霊能者が観音開きのドアを開ける。
一度に数百人が食事を摂れるような、大きな食堂だ。
「ようこそ!」
給食のおばさんが着てるような白い作業着を身につけた数人の男女が、俺たちセミナー参加者に向かって一斉にアイサツをする。
「彼らはわたくしたちの『仲間』です。彼らがみなさんが滞在中のお世話をしてくれます。料理も彼らが作ってるんですよ?」
「よろしくお願いします!」
『仲間』と呼ばれた給仕係は笑顔を浮かべ、ハキハキとした口調で声を揃えてお辞儀をした。
彼らの何の疑いもないような笑顔・・・まるで催眠術にかかっているみたいだ。
『仲間』っていうコトバでごまかしてはいるが、実態は『信者』ってとこなんだろうな。